ディレクターズ・カット

著者 :
  • 幻冬舎 (2017年9月7日発売)
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本棚登録 : 365
感想 : 65

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テレビのワイド情報番組の人気コーナー「明日なき暴走」で紹介された、若者たちが繰り返す無軌道、無分別な言動・行動が、じつは下請け番組制作会社の有能な突撃ディレクター仕込みのやらせだとわかったとき、無口で不器用かつネクラな若い美容師が殺人鬼へと変貌する。さらに視聴率アップを狙うディレクター自身が加速度的暴走を開始。静かなる殺人鬼は凶行を重ねる。警察の裏をかいて事件を収拾し、しかもそれを映像に収めようとするディレクターの思惑どおり生中継の現場に連続殺人鬼は現れるのか!? ラスト大大大どんでん返しの真実と、人間の業に、読者は慄然とし衝撃に言葉を失う!
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導入部は、若者たちのあまりにも無軌道で身勝手な振る舞いにうんざりさせられ、一瞬読むのを辞めようかと思わされるのだが、歌野作品はここであきらめてはいけないと思い直してさらに読み進める。次第に、彼らの振る舞いが、テレビ番組のためのやらせだとわかり、多少は腑に落ちる。この導入部と、その後とで、彼らの人格や言葉遣いが変わりすぎているのも、前者が演じていたからと捉えると、違和感も薄れるだろう。ここまでして他者を抜きたいのか、という思いと、連続殺人鬼となった川島輪生(もとき)の次の行動に対する興味でしばらくは読み進んだが、ラスト前になって、物語はがらりと様相を替え、息を呑むことになる。それまで起こっていた出来事の裏で、そんなことが行われていたのかと驚くとともに、腑に落ちる部分も多々あって、思わずため息が出る。しかし、それで終わりではなかったのだ。最後の最後にさらなる逆転が待ち構えており、その上さらに、予想外のからくりが種明かしされる。これぞまさにディレクターズ・カットではないか。裏切られる喜びを何度も味わえる一冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: あ行の作家
感想投稿日 : 2017年11月19日
読了日 : 2017年11月19日
本棚登録日 : 2017年11月19日

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