人生初となる夏目漱石本、チャレンジしてみました。
読み始めてしばらくは、生きている時代の違いに加えて、文豪の操る空気感に圧倒されたというか、どう受け取っていいかわからない雰囲気だったんですが、これは通常の『話を楽しむ』という目線で見るのでなく、そもそもスタート地点から描かれているものの趣旨を理解することがとても大事だな、と、読み終わって一層感じてます。
最初に『智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。』と、有名な語り出しから始まるところは、究極な話、この核心的なところで、この主人公は自分の画業(または創作のヒント)のために気分転換をしに出かけた逗留先で、徹底的に第三者にこだわった立ち位置で、『スノッブにならず、誰とも程度をこえて干渉せず、かといって自分の創作にも必要以上に固執せず』というスタンスを一貫していて、まさにこれが冒頭の文言に当てはまってるんだと思いました。
主人公は、行く先々や、関わる人たちとのふれあいから、情景を読み取るために観察力をはたらかせることに最大限の力を発揮していて、そのほとんどは自分の思い通り頭にインプットされてはいたものの、とある女性の形容しがたい表情を見たことで、謎に対する自分なりの答えが導きだされるまで、いろんな角度から、ごく自然に、ときに不自然に、対象物を捉えていくシーンが描かれます。
特に愛着もなければ義務があるでもないにせよ、そういう自分の疑問に対して素直に真剣に取り組むことこそ、住みにくい世から煩いを抜いてありがたいものを作る、画業に就くものの役割だ、と、いうのが主人公のポリシーのようで、全体をとおしてのメッセージだったのかなと。自分はそんなふうに感じました。
人と出会って打ち解けて、ドラマがあって、ハッピーエンド・・・的なコテコテの話からは極限のねじれ位置にあるような、一種、不思議な読書体験でした。
漱石先生のほかの作品も是非とも読んでみたいと思います。
ここからは余談ですが、ミレーのお話が載っている、山本有三の心に太陽を持て、を読んだあとなんの意図もなくここにもミレーの話題が・・・ってとこに個人的に戦慄をおぼえました(笑)
- 感想投稿日 : 2024年2月8日
- 読了日 : 2024年2月9日
- 本棚登録日 : 2024年1月29日
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