「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」、あるいは「夜行」といった作品に通じる空気を纏った最新作。
いわゆるアラビアンナイト、「千一夜物語」を重要なモチーフにして、物語の中に物語が、語り手の向こうにまた語り手が…、という構造に幻想的な描写が載せられている。
読んでいる途中、私はミヒャエル・エンデの「はてしない物語」も想起したが、そんな現実世界とファンタジーの、さらには時空をもつなぐ連環性も備えている。
誰も結末まで読んだことがない本、というツカミは非常に面白いし、序盤はその謎かけのパワーでグイグイと引っ張っていってくれるのだが、半ば頃から「この物語はどこに着地するんだろう…」という漠然とした不安感を抱かせる弛みが生じ、少し気を削がれてしまった。
総体的に、張られた伏線がすべて回収されてそれこそ大団円、大きなカタルシスをもたらすような作品ではなく、なんとなく"雰囲気で"包まれ、押し通されているような印象を受ける。
パラレルワールドにしてしまうのも、あるいは"逃げ"ではないか、と思われなくもない。
著者の文章が性に合う向きなら興味を持って読み進められるだろうが。
端的に言って、この本で何が描きたかったのか、それが分からなかった。
同じアラビアンナイトを下敷きにした小説としては、古川日出男氏の「アラビアの夜の種族」が挙げられるが、比類なき傑作と言って差し支えないあちらの完成度には遠く及ばない。
また、吉田神社の節分祭を始め、どこかで読んだような構成要素がいくつか出てくるが、森見作品とその読者にとっては必ずしもそれがマイナスにならず、却って味わいを増している感はあるし、京都で大学生活を送った我が身には懐かしくもある、相変わらず。
- 感想投稿日 : 2018年12月16日
- 読了日 : 2018年12月16日
- 本棚登録日 : 2018年12月16日
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