わたしの外国語学習法 (ちくま学芸文庫 ロ 3-1)

  • 筑摩書房 (2000年3月1日発売)
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 著者は、露・英・仏・独・ハンガリーの各語はいつでも通訳可能、その他、伊・西・日・中・ポーランドは半日あれば通訳できる準備ができる、そしてその他ブルガリア語・ヘブライ語・ラテン語・スロバキア語・ウクライナ語等、計16ヶ国語ができる女性の方である。しかも全て独学(!)で身につけたという、その筋では非常に有名な方であるらしいが、僕はこの年になるまで知らなかった。

 また著者は「私のような平均的学習者」を対象にこの本を書いたと言っている。平均的学習者とは、仕事も家事も行っている、そして自由時間が3~4時間程度だと。その自由時間のうち「1日のうち(語学学習に)1時間半(程度)も犠牲にすることのできない状態の人」は想定していないと言う。換言すると「週に起きて過ごす100~200時間のうち、10~12時間を学習に必要な最小集中密度」だと言う。

 世の中に「聞き流すだけでバッチリ」とか怪しげな語学学習法を華々しく宣伝しているが、そういうものが偽物であることがよく解る。著者は「毎日コツコツとやる大切さ」を訴えているように思う。
 ではコツコツとやれば彼女ように10か国語以上マスターできるかというと、僕はそうでないと思う。著者は自分のことを「(語学の才能に関しては)普通の人間だ」と至るところで言っているが、個人的には語学は努力+アルファの才能が必要だと感じている。努力すればみんなソコソコまでできるんだけど、そこから先は…という印象を受けます。

 この本で語学習得の秘訣はとにかく「読書」をすることに尽きると言う。夏目漱石もとにかく大量の英書を読んで英語を身につけたと言っているのに符号する。だから、単語の暗記とかは必要なく文章の中でドンドン覚えていくものだというスタンスである。この点も些か疑問に思う。洋書を読んでいてストレスが溜まるとしたら、単語(あるいは熟語)がわからない時だと思う。少なくとも1行に2個以上あると、途端に読むスピードが遅くなる。上級者はドンドン読書することで、語学の才能が伸びるとは思う。しかし、初心者はむしろ基礎的な単語の暗記が必要ではないかと思う。この点千野栄一が『外国語上達法』で述べているように、とにかく基礎的な1000単語は力づくで覚えた方が良いという主張に賛成する(さらに言うと、千野がいう「語学は身銭を切らないと覚えない」という主張にも大いに共感できる)。

 この本の欠点はとにかく訳が読みづらいこと。訳者はロシア語通訳で有名な方らしい(僕は寡聞にして、この片をあまり存じあげない)が、翻訳者としてはちょっといただけないレベルだと思う。新たに訳者を変えて、外国語学習者に幅広く読んでもらいたい内容の本だと思う。

以下、この本で印象に残った文言を備忘録的に記しておきたい。
・私の一番好きな外国語はロシア語です。その優れた形象性に、私は第一人者の王冠を与えるでしょう。
・ロシア語は…母音も子音もともに幅広い音階を有しています。この言語を見事に駆使出来る者にかかると、悲しくも、甘くも、勇壮にも、やさしくも響くことが出来るのです。
・(英語って簡単ですよね?との質問に)そう最初の10年間はね。でもそのあとは耐えがたいほど難しくなってくるわ。(英語は原理・原則から外れた部分があまりにも多いため)
・外国語は毎日学習すること。最低10分はやること。
・消費された時間+関心度(意欲)=結果(←これを分子として、分母に「羞恥心」が来る)。男性の平均的学習者は羞恥心が強すぎて、女性に比べ喋るという能力を身に着けるのが遅くなる(文法的に間違えたらどうしようとか、男性はよく思いますよね)。女性のほうがコミュニケーションへの欲求が強い(だから語学習得に向いている)。

 そして、外国語学習者が常に覚えておき、この言葉によって励まされるであろう。僕はこの言葉を知ることが出来て良かったし、実際励みになったし、学べるところまでで良いやって開き直ることができました。

・わたしたちが外国語を学習するのは、外国語こそが、たとえ下手に身につけても決して無駄に終わらぬ唯一のものだからです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年6月27日
読了日 : 2013年6月17日
本棚登録日 : 2013年6月27日

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