ドルジェル伯の舞踏会 (光文社古典新訳文庫 Aラ 1-2)

  • 光文社 (2019年4月9日発売)
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感想 : 11
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三年半ほど前、高校生のときに古書店で古い文庫を買って
積んだまま読まずに〈引っ越し処分〉していたことを思い出し、
反省しつつ光文社古典新訳文庫を購入。
早熟・夭折の天才と言われるレーモン・ラディゲの(短めの)長編小説。

1920年2月、パリ。
高等遊民の一種である二十歳の青年フランソワ・ド・セリユーズは、
社交界の花形アンヌ・ドルジェル伯爵およびマオ夫人と出会った。
フランソワの友人で外交官のポール・ロバンも交えて
サーカスを楽しんだり非合法のダンスホールで踊ったりして、
彼らは親交を深めていった。
フランソワは次第にマオ夫人に恋情を覚えるようになり、
距離を取るべきか縮めるべきか思い悩む。
一方、マオの心は……。

享楽的な暮らしを送る、
20世紀になっても貴族としての特権意識を失わない伯爵と
控え目な妻の間に、
上品だが物怖じしない青年が割って入るという
三角関係の物語。
フランソワはマザコンであることを自覚し、
母から精神的に自立するには一人前の男として
誰か特定の女を愛す必要があると考え、
最良の相手がマオ・ドルジェルだと思い至る。

それは恋ではないと思うが(笑)。

一方、マオは名家の出で、
若くして伯爵夫人となったため、
一般的な意味での社会経験に乏しい女性で、
夫の庇護下で安閑と暮らしていることに
引け目を感じていたかもしれない。
そんな彼女が――『肉体の悪魔』の人妻マルト・グランジエとは違って
――実際に不貞を働くわけではないけれども、
不意に現れた気品のある――しかし、
実は内面はウジウジ、グシャグシャしている――青年に
心を動かされ、思い悩むという話。
彼女は秘密を抱え込んでいられず、
自分と彼を引き離してくれとフランソワの母に手紙を書き、
遂には夫にも心情を告白してしまう。
面白いのはエンディングでの夫のリアクション。
彼はあくまで妻を籠の中の鳥のように愛で続ける意思を翻さず、
結果、彼女の心は
現状以上にフランソワへ傾くことはないとしても、
夫との間には、
さながら一枚の紗幕が掛かったかのような距離感が
生じてしまうのだった。
マオにもっとバイタリティや図々しさがあれば、
苦労を承知で自由を求めて外へ飛び出す、
イプセン『人形の家』のノラのようになれたのだろうか。

仮装舞踏会は準備すら中途半端で、
一同はこれから改めて各々の役回りを定め、
それに従って上辺だけは楽しそうに、
力尽きて倒れるまで踊り続けるのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  フランス語文学
感想投稿日 : 2023年1月4日
読了日 : 2023年1月4日
本棚登録日 : 2019年4月16日

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