宇喜多の楽土

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  • 文藝春秋 (2018年4月26日発売)
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『宇喜田の捨て嫁』の続編とも言える、宇喜田直家の息子、秀家の話。
直家が暗殺を武器に伸し上がったしたたかな男というイメージなら秀家は己の『義』を貫くため、世の中の流れや政治的な強者に抗い続けた男というイメージ。
お家騒動を起こしたり関ヶ原後は逃げ回ったり、どうにも小者感が拭えなかった秀家だが、こうして描かれると、なるほど、彼なりの意思があったのだとも思える。
秀家もあの世で喜んでいるのでは。
徳川家康が『流されて生きてきた』のと対称的に、秀家が『逆らって』生きる様はなかなか興味深いものがあった。

小早川秀秋のように秀吉の甥でありながら土壇場で寝返るような人間にはどうにも冷たくなってしまうものの、彼にも生き残りのための色んな考えがあってこそのことだろうし、秀家が懸命に己の『義』を貫こうと様々なものに抗って闘う様は日本人が好きなタイプではあるものの、反面、宇喜多家を崩壊させ多数の死者を出し家臣や領民たちの生活を苦しくさせてしまったことも事実。
歴史の人物や事象の評価は見るもの見る側によって全く異なってしまうものだなと改めて思う。

また関ヶ原後の落武者狩りで一度は見付かりながら何故か助けられるというエピソードにもこんなストーリーを考えられていたとは。
父親の直家が夢を描き秀家が実現しようとしていた『楽土』がこんなところにあったという結末にも感心した。
豪姫の、離れていても秀家と思いは一つという寄り添い方も素敵だった。

木下さんは歴史の敗者や悪者とされる人々にスポットを当てるのが上手い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説 戦国・歴史・伝記
感想投稿日 : 2018年9月2日
読了日 : 2018年9月1日
本棚登録日 : 2018年9月2日

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