死体の損壊や損傷が激しく、通常の検死では正確な情報収集ができないケースにおいて、死体についた虫を解析することで情報を割り出していく法医昆虫学。
昔気質の警察官からはまだ胡乱な目で見られながら捜査に奔走する法医昆虫学者・赤堀涼子の活躍を描くサスペンスミステリー。シリーズ4作目。
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東京都西多摩の山中で見つかった、切断された両腕。検屍の結果、腕は男のものであり死後に切断されたことが判明。警視庁は死体損壊遺棄事件として四日市署に本部を置き捜査を開始した。
だが、両腕の発見現場付近からは遺体の他の部位は見つからず、岩楯警部補と山岳救助隊員で遺体の発見者でもある牛久巡査長は途方に暮れる。
さらに指紋や掌紋がすべて削り取られているわりに、見つかった両腕はむき出しのままで遺体を隠そうとしたフシがないことや、死後経過時間について司法解剖医と涼子の見立てが大きく違っていることなど、この事件には頭を悩ます点が多い。
そんな岩楯たちを尻目に、涼子は喜々として独自の捜査を展開するのだった。全5章。
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本作もおもしろかった。前作と比べるとコミカルな部分は少なく少々暗めな描写が目立ったけれど、涼子のブレないスタンスが引き立つ展開が作品の魅力になっています。
また、犯罪被害者の遺族と加害者の家族それぞれの苦しみにスポットを当てたり、重度のアレルギー体質を持つ少年を登場させるなど、現代よく取り沙汰される問題を無理なく盛り込んでいるところも好もしく感じました。
そして何より「法医昆虫学」の強みを前面に押し立てたストーリーがいい。
前作と同じくホオグロオビキンバエが涼子の捜査の突破口になっていて、涼子によるその説明も興味深くおもしろい。
「昆虫時計」というものは、かなり正確だと聞きます。それを熟知した涼子の推論は、まさに目からウロコの斬れ味です。
アメリカではすでに一般的になっている法医昆虫学を用いた捜査手法に着目して、重厚で読み応えがある作品に仕立てた川瀬七緒さんには謹んで敬意を表したいと思いました。
- 感想投稿日 : 2023年6月5日
- 読了日 : 2023年6月5日
- 本棚登録日 : 2023年6月5日
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