人材派遣会社に入社して間もなく、窓際部署に追いやられた女性社員とその仲間たちの奮闘を描くヒューマンドラマ。
主人公の福田初芽と彼女と関わる5人の人間の物語が描かれる。
◇
その日、福田初芽は朝から石黒部長の前で小さくなっていた。理由は些細なことだった。会議資料8部をカラーコピーしてしまったというだけである。だが、営業成績が上がらない初芽に対し石黒の叱責は容赦ない。生産性が低いクセに会社に損失を与えたというのである。
結局この日、役に立たない人間は不必要とばかりに初芽は営業部を逐われAI推進部へと異動することになった。
初芽が意気消沈して向かった AI推進部。それは 11 階フロアの片隅にあり、物置と見紛うような薄汚い部屋だった。
そしてそこは、社内の IT環境の整備を担当しているわけでもなく、社運を左右する情報分析を行っているわけでもない、いわゆる誰もが嫌がる雑用をさせられるだけのリストラ部屋だった。
(第1話「福田初芽(23)の叛逆」) 全7話。
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この会社、大丈夫なのか。読み始めてまずそう思いました。人材不足が露呈しているように見えます。業界中堅なのだから、もう少し有能な人間がいるのではないかと思うのに、あまりにひどい。
まず、頼りない2代目社長に代わって実権を握っているのが、いち営業部長に過ぎない(「取締役」ですらない) 石黒であるという点。重役連中の影も見えません。普通は副社長なり専務なりが若社長の補佐役につくでしょう。
2つ目は、石黒の直属の部下たちの力量のなさ。石黒に阿るだけで、あとは上司の威を借りては目下の者にパワハラを繰り返すしか能がない。こんな阿諛追従の愚物を左右に置いているのは、そんな人材しかいないか、石黒がそれだけの人物でしかないかのどちらかでしょう。
さすがにAI推進部に属する面々は多少は不器用であるものの、人間性が豊かで思いやりに満ちていたけれど、ラストの一発逆転が……。
それまで憎まれ役として登場してきた人間がすべて善良な人だったというのはどうなのでしょう。人間はコンプレックスや置かれた境遇でパワハラやセクハラをしてしまうのであって、悪意の塊というわけではないとでも言いたかったのでしょうか。( 小狡い人間はどこまでいっても小狡いだけだと思います。)
もっと違うクライマックスを用意してもよかったのではないかと思いました。
人気作品で予約してから2か月待ちました。人生に対する希望を喚起する作品で、たとえ一時的に不遇であっても前を向いて生きていこうというメッセージはよくわかります。ただリアリティに欠けるという点で、小中学生向きの内容に留まっていたのは残念に思いました。
- 感想投稿日 : 2023年12月18日
- 読了日 : 2023年12月18日
- 本棚登録日 : 2023年10月22日
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