小さな建築 (岩波新書)

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  • 岩波書店 (2013年1月23日発売)
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東日本大震災を機に、建築の在り方を再考した隈さんがたどり着いたのが「小さな建築」。
単にサイズが小さい建築ということではない。
人間と世界のつながりを絶たず、衣服のように人を包み込むような建築。
鉄筋コンクリートやガラスを素材とし、電気、ガスや水道などのインフラという大きな構造に依存しないと成り立たない、近代建築へのアンチテーゼである。

もちろん、近代建築は、人間と災害との闘いの中で考えられてきたものであることは、冒頭にしっかり確認されている。
3・11は建築家に対して、その建築の歴史をも否定するほどのインパクトをもったということだ。

水を入れたポリタンクのブロックを積んで作る家。
紙製のハニカム構造の両側を、ガラス繊維強化プラスチックでくるんだ壁面で構成された「ペーパースネーク」。
傘の骨と防水性のある布を組み立てて作る、携帯できる家、「カサ・アンブレラ」(これは日本人にしかわからないダジャレだ)。
フランクフルト工芸美術館から依頼された茶室は、なんと木や土のような自然素材を使うなとの注文がつく。
そこで、膜に空気をいれたものを構造としたピーナッツの殻のような茶室が出来上がる。
こうした隈さんの「小さな建築」への挑戦が紹介されていく。

こうした作品の一つ一つを追っていくことも、本書を読む楽しみではあるのだが、もう一つはこの本は建築批評であり、建築史という思想の本という側面もある。

自分に刺さったのは、エンゲルスを援用した住宅を私有することへの批判の部分だった。
労働者が住宅を私有しても、家は老朽化してやがてゴミになり、資本を生むことはない。
重い借金を抱え、土地に縛り付けられるだけだ、というのだ。
では、人間はどこに、どのように住むべきか。
残念ながら、まだ「小さな建築」が普及していない。
政府が「小さな建築」、小さな住宅を奨励したり、あるいは住宅を買わずに住み続けられる政策にシフトするとも思えない。
これは、きっとこれからも問い続けられる問題なのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年6月18日
読了日 : 2023年6月17日
本棚登録日 : 2023年6月18日

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