貧乏サヴァラン (ちくま文庫 も 9-5)

著者 :
制作 : 早川暢子 
  • 筑摩書房 (1998年1月1日発売)
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感想 : 114
4

長らく気にはなっていたのに、読む機会がなかった作家。
このほど、ようやく、はじめて読む。

サヴァランというと、洋菓子を思い浮かべる。
あのお菓子の由来となったフランスの政治家にして美食家のブリア・サヴァランという人がいるらしい。
「グルメ」の謂いかと思われる。

自由な形式。
一つ一つの文も、長かったり短かったり。
最初読みにくいなあ、と思ったが、あっという間にハマる。

ただ好きな食べ物について語っているだけなのに、人となりが伝わってくる。
食いしん坊で、好き嫌いがはっきりしている。
少し前に流行った「丁寧な生活」なぞとは大きく違う。
こんなふうに、好きなように生きて行っていいんだ。
勝手に、そんなふうにも思えてくる。

フランス料理は大好きなのに、ビスケットだけはイギリス流がよく、「ビスキュイ」は認められなかったらしい。
氷屋さんで買うダイヤ氷。
婚家で覚えた「八杯豆腐」とは一体なんぞや?
薔薇や菫の砂糖菓子。
記述から、今の世にはない生活が彩をもって目の前に現れてくる気がする。

家族からの評価も高かったという彼女の料理の特徴は、日本酒をたくさん振りかけることと、上等のバターが使われること。

母のしげと自分は世間から「悪妻」認定された、と書く。
けれど、どこかおおらか。
別れた夫、山田珠樹との生活も、それなりに楽しかった、と思っているようだ。
父鴎外から、「上等、上等」と言われて育てられたため、実際より幾分上等に育った、とご本人はいうけれど、そうした人柄のよさが見える気がする。

思いついたことを散漫に書いてしまうけれど、白雪姫のことが気になる。
彼女が子供の頃(明治の終わりごろ)には、まだ子供用のおとぎ話の本には入っていなかった由。
両親はそれを「ゆきしろひめ」と呼んでいたという。
たしかに英訳では「Snow White」。
「しらゆき」という言葉がなんとなく嫌い、という茉莉の感性が、わたしにもなんとなくわかる。

それから、文化人の仲間、先輩とのつきあいも割と多い人という印象も受けた。
三島由紀夫、室生犀星、三好達治、吉行淳之介・理恵きょうだい。
白石かずこ、矢川澄子、富岡多恵子、三宅菊子。
人間関係も豊かだった人のようだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年4月17日
読了日 : 2022年4月17日
本棚登録日 : 2022年4月17日

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