女と文明 (中公文庫 う 15-15)

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  • 中央公論新社 (2020年6月24日発売)
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母方の祖母は昭和初期生まれで「全自動洗濯機は汚れが落ちない」といつまでも二層式の洗濯機を使っていました。しかもシャツの衿などは洗濯板での部分洗いが必須。乾燥機の導入など提案即却下です。そして「毎日の洗濯、物干し、アイロンがけ…きつい。つらい。手がボロボロ。」といつも愚痴をこぼしていました。
それではと母が洗濯をすれば「洗い方が雑」「干し方が雑」「アイロンが雑」と文句をつけます。必ず「あの子はガサツだから」と人格否定コミでです。
炊事もそうです。「手伝われると却って手間が増える」と言われ、台所の主導権を渡そうとはしませんでした。
綺麗に整えられた服や料理はとても有り難かったのですが、祖母の不機嫌に家族が支配されていました。
私はこの本を読んで祖母を思い出しました。

しかし、誰しもが感じていることでしょうけど「女性が家事労働を発明することで自らの存在意義を主張している」だけが原因ではないと思うのです。
つい最近、新聞の特集記事で夫からのモラハラ事例「料理が冷めていたり出来合いだったりすると罵倒される」等を読み、結婚とは人生の墓場なんだとの確信を深めました。国民皆保険で想定されているモデルケースは「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」です。それぞれ時代はバラバラですが、女も男も子供も行政も、みんなが共犯なんじゃないのだろうか。
174、175ページあたりの「家事がどんなにしんどいものかを理解させるのではなく、家事というのはいかに馬鹿げたことか、いかに家事をせずに済ますのかを家族に理解させる」というのが私にとっての本書の最重要ポイントです。巷にあふれる家事ハウツーや「芸能人主婦vs芸能人夫!」みたいな対立煽り番組なんかよりも結婚が人生の墓場たりうる諸問題の突破口なんじゃないかと思うのです。
若い父親が街頭インタビューで「唐揚げは手抜き料理」と言って炎上していましたが、「唐揚げとか揚げ物は家でするものじゃないですよね。買ったりお店で食べたりするものです。」となる日は来るのでしょうか。

因みにわたしは満員電車での通勤が大っ嫌いなので238ページ「男の自衛と選手交代」以降には大いに膝を打ちました。
踏ん張って耐える通勤電車など、女性が物理的・生理的に耐えられないハードルは男の最後の切り札なのかもしれない、それらは情報産業の時代が進むにつれて問題にならなくなるであろう、というものです。
首都圏からの本社機能の移転やリモートワークの拡大、あと“働き方改革”が進み、男性が自衛をしようにも外堀が埋められていつの間にか最後の砦は陥落し男女は同質になっていた!…ってなるといいですね。そのころは私はもう労働力人口ではないかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫
感想投稿日 : 2021年9月11日
読了日 : 2021年9月11日
本棚登録日 : 2021年9月11日

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