白い巨塔〈第5巻〉 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2002年11月20日発売)
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本棚登録 : 2877
感想 : 208
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とうとう最終巻。昨年読了した「不毛地帯」では、日本人のシベリア抑留と商社ビジネスの詳細な取材力には舌を巻いたが、本作品では医師でも法曹関係者でもない著書が、医学と裁判についてよくここまで調べ上げたなぁと感嘆の思いでいっぱいである。
結末を述べれば、主人公:財前の敗訴、そして胃癌による早逝である。本作品では財前は権利的で権謀術数を駆使するという点で(少なくとも里見と比較すると)いわばヒールとして描かれているが、数多い読者の財前に対する思いは如何ほどであろうか。私は思う。財前は、大多数の成人男性にとって、「かくありたい」と思える憧れの偶像なのではないかと。仕事が出来、富と権力を手中にしながら、尚も上を目指していく姿が、本作品が連載された時代である高度成長期の日本人サラリーマンの理想像ではないかと思うのだ。実際、理想まで到達出来る人は極少数で、さらに理想像である財前も志半ばで倒れてしまうのであるが…。
私の場合も…、財前を羨ましく思わないというと嘘になるだろう。現実は遠く及ばないのだが…(笑)。
また、本巻の見所は柳原医師の爆発。良心の呵責に耐え切れず、財前を裏切り、裁判で真実を語ることになる。財前にとっては、まさに飼い犬に手を噛まれた形になる。この柳原の一連の動きに胸のすいた読者はたくさんいるに違いない。アンチ財前ではない私も、柳原の行動にはつい拍手喝采をしてしまった。
結局、山崎豊子作品は、様々や業界や分野の緻密な取材による重厚感溢れる内容もさることながら、1番の魅力は人間関係の機微ではないかと思う。魅力的な人間、醜い人間、弱い人間など、様々なキャラクターを自然かつ絶妙に描いている点が著者の人気の秘密ではないだろうか。今まで、「華麗なる一族」「不毛地帯」「白い巨塔」とTVドラマ化されたものを読んできたが、他にも色々と読んでみようと思う。2年前に映画化された「沈まぬ太陽」あたりが最有力候補なのだが…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年6月5日
読了日 : 2003年6月5日
本棚登録日 : 2011年6月5日

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