「比嘉姉妹シリーズ」の第3作。
前作『ずうのめ人形』は、よくできてはいたが、いちばんキャラの立った姉・比嘉琴子が登場しない分だけ物足りなかった。
対照的に、本作は琴子が出ずっぱりである。
しかも、琴子がまだ霊能者として活動し始める前の小学生時代も、かなりの紙数を割いて描かれている。「琴子推し」の私としては、それだけで点が甘くなる。
〝覚醒前〟の琴子は、霊が見えることにいつもビクビクしている気弱で根暗な女の子だった。それが、「ししりば」と遭遇する体験を通じて変わる。
つまりこれは、最強の霊媒師・比嘉琴子の〝誕生〟を描く物語でもあるのだ。
キングやクーンツらのモダン・ホラーの骨法を踏襲しながらも、澤村伊智は〝日本人にしか書けないホラー〟を書くことにこだわりつづけている。
本作もしかり。
「呪われた家」という、ホラーとしては手垢にまみれきった題材を扱いながらも、ジャパネスクな味わいが絶妙なスパイスになっている。
前2作もそうであったように、得体の知れない化け物の恐怖を主軸に据えながらも、終盤でその化け物の正体について、整合性ある謎解きがなされる。「なるほど。そういうことだったのか」という納得感がある。ホラーであると同時にミステリでもあるのだ。
澤村伊智は技巧的な構成を得意とする人だが、本作も異なる視点の物語が同時並行で進行する凝った構成。
また、「流れる砂」の描写が本作の鍵となるのだが、一行の文字数を厳密にコントロールすることによって、視覚的にも砂が流れていくような感覚を味わわせる箇所があるなど、文章も凝りに凝っている。
加えて、本作はストーリー上、犬が重要な役割を果たすので、犬好きの私としてはそこも加点ポイント。
- 感想投稿日 : 2019年8月9日
- 読了日 : 2019年8月9日
- 本棚登録日 : 2019年8月9日
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