スピンクの笑顔

著者 :
  • 講談社 (2017年10月31日発売)
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本棚登録 : 79
感想 : 8
4

町田康が、飼い犬のスタンダードプードル「スピンク」になりきって綴るシリーズの第4弾。
そして、これがシリーズ最終巻である。なぜなら、当のスピンクが本書の最後に亡くなってしまうから(泣)。

これまでのシリーズより大幅にボリューム増して、430ページ近い大部の書になっている。
とはいえ、町田家の日常のよしなしごとを、飄々とした笑いの中に綴る脱力感あふれる内容は、これまでと同じだ。

スピンク以外の飼い犬にも、これまでのキューティー・セバスチャンとシードのほか、本巻では「チビッキー」(トイプーとマルチーズのミックス)が新たに加わる。
町田夫妻プラス4匹(ほかに何匹もの飼い猫がいるらしいが、本シリーズには一切出てこない)の暮らしぶりは、まことににぎやかである。

過去三作同様、スピンクたちになりきって犬の気持ちを綴るディテールが微笑ましい。

《犬の人生は楽なものではないが、人間は人間で苦しいのだなあ、可哀想に。耳でもなめてやろう。私にできることはそれくらいしかない。》286ページ

などというさりげない一節を読むだけで、楽しくなってくる。

町田康が近著『しらふで生きる』で綴った断酒生活の発端が、この『スピンクの笑顔』にも描かれている。犬たちの目を通して綴られるそのいきさつには、『しらふで生きる』とはまた違った味わいがある。

そして、本書の掉尾を飾る一編「家の中が静かです。」は、スピンクに代わって弟キューティーが綴る(という体裁の)、スピンクの最期の様子である。

《スピンクがいなくなって家の中は静かです。
 静かでスカスカです。
 その静かな家の中に私は息を潜めて踏ん張って立っています。
 スピンクがいた場所に立っています。》

……というラスト・フレーズは、町田康の喪失感をそっくり反映しているようで、しんみりとする。

そして、このシリーズ各巻に共通することだが、随所に挿し挟まれたスピンクたちの写真が、しみじみとよい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ&コラム一般
感想投稿日 : 2020年4月1日
読了日 : 2020年4月1日
本棚登録日 : 2020年4月1日

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