夜更けの川に落葉は流れて

著者 :
  • 講談社 (2018年1月14日発売)
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感想 : 13
4

 表題作の中編と、短編2編を収めた最新作品集。

 ここ数冊、長編はともかく短編は低調だった西村賢太だが、本書は久々の本領発揮という趣。とくに表題作は素晴らしい。帯の惹句に言うとおり「新たな代表作」と言ってよいかも。

 賢太の分身・北町貫多が24歳のころの話。過去のいくつかの短編にもチラッと言及があった、貫多の4人目の彼女(「秋恵」の前の彼女に当たる)との出会いから別れまでの物語である。
 賢太の手持ちの材料のうち、「切り札」とまではいかずとも、ジャックかクイーン級のカードを出してきた感じ。

 内容はいつも通り。バイト先で知り合った2歳下の「佳穂」とつきあい、途中までは仲睦まじくつきあうものの、例によって貫多が「キレる」ことによって一気に破綻に至る。

 ワンパターンといえばワンパターンだが、そこに至るディテールが丹念に描きこまれていて、読ませる。微塵も華々しさがない、いわば〝地を這うような青春小説〟として秀逸だ。
 賢太がキレて佳穂を殴り、前歯を折ってしまうまでの、ジェットコースターが頂上に向けて上っていくようなドキドキの高まりもスゴイ。
 また、怒りに燃えた佳穂の両親(過去の短編で「廃業した力士のような」と表現されていた父親の描写がよい)に怒鳴り込まれ、卑屈の極みの姿をさらしてあやまり倒す場面では、笑いがこみ上げてくる。

 クズ男のクズな行動を描いているだけなのに、乾いた笑いと胸を衝く哀切が随所にある。「これぞ西村賢太!」という味わいの傑作中編である。

 ほか2編の短編のうち、冒頭の「寿司乞食」は凡作だが、もう1編の「青痰麺」がこれまた傑作。かつての名短編「腋臭風呂」(しかし、2つとも汚いタイトルだなァ)を彷彿とさせる歪んだ笑いが炸裂する。
 とくにラストシーン。北町貫多の行動は「クズオブクズ」であるにもかかわらず、爆笑せずにいられない。

 「西村賢太健在なり」を示す一冊。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 西村賢太
感想投稿日 : 2018年9月18日
読了日 : 2018年6月3日
本棚登録日 : 2018年9月18日

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