私は、最新作『きょうも厄日です』で、ようやく山本さほ作品の面白さに気付いた。
それ以前から存在は知ってはいたが、「なんか手抜きみたいな絵を描くマンガ家だな~」という印象しかなく、食わず嫌いをしていたのだ。
で、遅まきながらファンになった者として、代表作と言われる『岡崎に捧ぐ』全5巻をまとめ買いし、一気読みしてみた。
これは傑作だ。山本さほのよいところがすべて発揮されている。
一見ヘタウマ風な絵柄ながら、じつはすごく絵がうまいマンガ家であることもわかる。そのうまさがよく示されているのが、『岡崎に捧ぐ』のコミックス各巻の見事なカバー画である。
笑いと涙の要素が、絶妙のバランスで配合されている点も素晴らしい。
ちりばめられた「あとを引く笑い」と、「コメディだから」と油断していると不意に斬り込んでくる怒涛の切なさ――2つの要素がないまぜになって、豊かな物語世界を構築している。
『岡崎に捧ぐ』は、山本さほの自伝的作品である。
小学4年生のころから、30歳を過ぎてようやくマンガ家としての第一歩を踏み出すまで――約20年間が、親友「岡崎さん」との関係を軸に描かれている。
小4のときの岡崎さんとの出会いから物語は始まり、岡崎さんの結婚式で幕を閉じる。作品の末尾には、「この作品を親友の岡崎さんに捧ぐ」という献辞が掲げられている。
山本さほも岡崎さんもかなり変わったキャラクターの持ち主であるため、ありきたりな友情ストーリーには終わっていない。
ありていに言えば2人とも非リア充側であり、世間のメインストリームから外れており、どこか生きづらさも感じさせる(とくに、岡崎さんの幼少期の家庭環境は、いまから見ればネグレクトに当たる)。
つまり、従来の友情ストーリーならけっして主人公にはならず、脇役/モブキャラに終わるような2人が主人公に据えられているのであり、そのギャップが面白さにつながっている。
山本さほと同世代の読者なら、世代的な懐かしさを感じさせる要素も満載だろう。
だが、同世代でないと楽しめないようなマンガではなく、普遍的な友情物語として優れている。代表作と呼ばれるにふさわしい。
- 感想投稿日 : 2021年10月22日
- 読了日 : 2021年10月22日
- 本棚登録日 : 2021年10月22日
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