この2人の対談集では、少し前に読んだ『平成史』がとてもよかった。今回も質の高い議論が展開されていて、読み応えがある。
広い分野のたくさんの人と対談集を編んでいる佐藤優さんだが、その中にあって、片山杜秀氏とはとくに相性がよいのだと思う。
「ファシズムとは何か?」と改めて聞かれたら、あなたは何と答えるだろう? ファシズムの本質は、わかっているようで意外にわかっていない。
《現代の日本では、ファシズムという言葉に手あかがついてしまって、ほぼ無定義に使われてしまっていますね。
ヒトラーのナチズムだけでなく、民族主義や純血主義、全体主義、ナショナリズム、独裁などとも混同されてしまっている。あるいは、ファシズムを自由主義や共産主義と対立する極右の国家主義的な政治形態と考える人もいる(佐藤さんの発言)》
そうした現状をふまえ、本書は「そもそもファシズムとは何か?」というところから説き起こされる。ゆえに、「ファシズム入門」としても役に立つ。
また、戦前・戦中の日独伊三国のファシズムを比較検討し、その違いを浮き彫りにする。
そこでは、軍国日本のファシズムを分析して司馬遼太郎賞を得た片山氏の著作『未完のファシズム――「持たざる国」日本の運命』が、対話の〝導きの糸〟となる。
そして、戦後日本社会に潜むファシズムの残滓や、プーチン、トランプらに象徴される、21世紀の国際社会に見るファシズムの萌芽についても論じられる。
というと、「戦前の〝軍靴の響き〟がいまそこに……」と、危機感を煽り立てるサヨ的論調を想像するかもしれない。が、両対談者のパーソナリティからして、そのような通りいっぺんの内容にはならない。
なにしろ、第1章が「ファシズムは悪なのか」という挑発的タイトルになっているくらいで、ファシズムのプラス面(!)にも触れられているのだから。
とはいえ、ファシズムが危険な劇薬であるのは確かで、世に警鐘を鳴らす一書ではあるのだが……。
- 感想投稿日 : 2019年7月28日
- 読了日 : 2019年7月28日
- 本棚登録日 : 2019年7月28日
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