岩盤を穿(うが)つ

著者 :
  • 文藝春秋 (2009年11月11日発売)
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本棚登録 : 74
感想 : 18
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 カバーデザインと副題の印象から、湯浅の人物像と活動内容を多面的に解説したムックなのかと思ったら、違った。雑誌等への寄稿と講演録を集めた、『反貧困』の続編ともいうべき本である。

 顔写真をカバーに使うあたり、姜尚中さんの流れを汲む「知性派イケメン」(に見えなくもない) 湯浅を、ある種のスターとして売り出そうという意図があるのかな。
 
 代表的「貧困ビジネス」を紹介して批判する原稿があったり、米国の労働運動を視察して書いたルポ的文章があったりと、日本の貧困問題をさまざまな角度から浮き彫りにする内容。
 『反貧困』に感動した人なら、読んでおいて損はない本だ。「活動家」としての歩みを振り返った自伝的エッセイも収められていて、湯浅の人となりもよくわかるし。

 副題に言うとおり、湯浅は何よりもまず「活動家」ではあるのだが、同時に、言葉をとてもたいせつにする人だと思う。貧困問題をいかにわかりやすく人々に伝えるかを、活動の中で日々考えているのだろう。
 だからこそ、本書にも心に響く言葉がたくさんちりばめられている。たとえば――。

《私が問題にしたいのは、“社会不信”だ。政治不信は、言われ始めて久しい。しかし、本当に深刻なのは、むしろ社会不信ではないかと感じる。どうにも這い上がれない状態に追い込まれながら、そのこと自体が「努力が足りない」と叩かれる理由になっている社会では、何かを言ったところで、誰もそれを受け止めてくれると思えなかったとしても不思議はない。秋葉原事件という特殊な事件を超えて、私が危機的だと感じるのは、その社会不信の蔓延だ。》

《高度経済成長期に精神形成した今の中高年世代には、どうしても「まじめにやっていればよくなる」という世界観から脱けられない人が少なくない。しかし、就職氷河期以降の世代には「どうしてそんなに楽観的に考えられるのか理解できない」という人が少なからずいて、両者は非常に基本的なところでコミュニケーション断絶に陥りやすい。》

《「貧困ビジネス」は、「ゼロよりは一がマシ」という理屈に立脚している。しかし、本来保障されるべきは二であり三であり五であって、またそれが保障されていれば、誰も「貧困ビジネス」など利用しない。》

《セーフティネットはこれまで、「負担」と考えられていました。それだとどうしても「落ちこぼれたやつらのために、努力してきた私がどうしてお金を支払わなければならないんだ」という発想になります。しかしセーフティネットは単なる負担ではなく、それがあって初めて社会が健全に保たれる、という意味での「必要経費」です。サーカスの綱渡りの下に張られるセーフティネットは、落ちた人が怪我しないようにするだけでなく、人々が思い切った演技をするためにこそ必要です。セーフティネットのない社会では、追い詰められ、疲弊しながらも怖くてチャレンジできない人ばかりが増え、社会の活力が失われていきます。》

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 貧困問題
感想投稿日 : 2019年3月23日
読了日 : 2010年2月27日
本棚登録日 : 2019年3月23日

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