池袋の闇の部分、猥雑な側面に的を絞ったルポ集。対談ではなく、章ごとに筆者が交替する共著だ。
私が元々いた編プロは、「池袋サンシャインシティ」内のマンションにあった。池袋は20代前半の一時期に毎日通った馴染み深い街である。
ゆえに、本書も興味深く読んだ。
サンシャインシティも、A級戦犯たちが処刑された「巣鴨プリズン」の跡地に建てられたため、心霊スポットの一つとして1章に登場する。
いちばん衝撃的だったのは、4章に登場する「桶川ストーカー殺人事件」の主犯・小松和人の話である。
小松は1990年代、池袋で熟女風俗店を経営し、チェーン化して大儲けした「若き風俗王」だった。その店のスタッフとして働いていた女性から見た、小松の別の一面を浮き彫りにした内容なのだ。
殺人事件の側面から見れば、小松は冷酷なサイコパスでしかない。だが、女性によれば「小松君はすごく爽やかで感じがよくて誠実だった」そうだ。
小松は《子どもがいる風俗嬢が安心して働ける託児所の開設》を夢として働き、《風俗嬢やスタッフから信頼され、愛されていた経営者だった》(97ページ)という。
どちらの顔が真実であるという話ではなく、人間はそれだけ多面的な存在だということだろう。
小松は逮捕される前に北海道の屈斜路湖で水死体となって発見され、警察により自殺と断定された。
だが、本書に登場する女性は、暴力団関係者に金を奪われて殺されたと推察している。
全体としては面白く読んだが、著者の一人・中村淳彦には自分の限られた見聞を根拠に全体を決めつける悪癖があって、それはこの本でも相変わらずだ。
たとえば――。
《ここまで「池袋=変態」という話が散々出てきた。そうなると、埼玉県民が変態という見方もできる。残念ながらそれはある程度事実で、埼京線が痴漢まみれというのは有名な話だ》(176ページ)
池袋のラブホ街・風俗街に変態が集まりがちだとしても、池袋全体が「変態の街」だということにはならない。
池袋に埼玉県民がよく行き、埼京線に痴漢が多いからといって、「埼玉県民が変態」だということには普通ならない(笑)。
あたりまえの話だ。なのに、中村はあっさりと2つをイコールで結んでしまう。
もう一つ例を挙げる。
《いま大学は貧困の巣窟であり、女子学生が学費のためにカラダを売るのは普通のこととなっている》(179ページ)
もちろん中にはそういう人もいるだろうが、さすがに「普通のこと」ではないと思う。「普通」と感じるセンサーが歪んでいる。
私が中村淳彦の著書を読むのはこれで7冊目で、ある意味「ファン」といってもよいのだが、いつもこの悪癖が気になる。
たとえば、『崩壊する介護現場』では、介護業界で働く女性の多くが副業で性風俗をやっているように思える書き方をしていた。
■『崩壊する介護現場』レビュー
https://booklog.jp/users/gethigh316/archives/1/4584124175
また、『日本の貧困女子』の1~2章は、茨城・栃木・群馬の北関東3県の貧困女子に取材しているが、それを読むと、北関東が女性が不幸になるしかない「人外魔境」に思えてくる。そういう極端な書き方なのである。
■『日本の貧困女子』レビュー
https://booklog.jp/users/gethigh316/archives/1/4815601232
なお、花房観音が書いた章は、どれもわりとよい。
ルポというより、池袋を舞台にした私小説に近いテイストになっている。
- 感想投稿日 : 2022年8月26日
- 読了日 : 2022年8月26日
- 本棚登録日 : 2022年8月26日
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