花神(下) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (1976年9月1日発売)
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だだの狂人集団から、維新政府へと移り変わっていく長州。<br>
村田蔵六こと大村益次郎は、そうやって移り変わる時代と共に、討幕軍の総司令官となった。<br>
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村田蔵六はただの技術者であり、ただの技術者であることが彼の信念でもあった。<br>
人目を気にせず、人間関係を円滑にしようなんて微塵も考えない彼は、周囲の人間から見れば全くの馬鹿のように見えるかもしれない。事実彼は、実力こそあったものの、周囲からの評価は『えたいのしれない奴』であった。だが、彼はそんな人間であるからこそ、こんな偉業を成し遂げたのだろう。<br>
村田蔵六は総司令官であったので、ほとんど戦場には出ずに、討幕軍と戦っていた。人の命の潰える戦が行われていたことは事実であるが、村田蔵六のみにスポットを当ててみると、彼はいつものように『ただの技術者』でしかなく、室内に篭っていただけである。彼はやるべきことは何であるかを知っており、それをやれるのは自分でしか無いということも知っていた。そして、やる必要の無いことは何も行わなかった。そんな『明治維新』もあるのだな、となんだか不思議にも思った。<br>
そして、何よりも不思議であるのが、村田蔵六自身の終焉である。彼は、本当にあっさりと消えた。彼の役目が終わると同時に消えたのだ。これが一年前であったら、歴史が変わっていたかもしれない。しかし、そうではなかった。それがなおさら、村田蔵六らしい。<br><br>
こんな人間がいたのだと思うと、彼は本当に神が使わしたのかもしれない、と感じてしまう。きっと、村田蔵六自身はそれを否定するだろうが。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2006年10月11日
本棚登録日 : 2006年10月11日

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