3歳の「わたし」の視点から、父の後妻として血の繋がらない母となる「あなた」を始めとした人間を描写する文体やストーリーテリングは、ホラーのようなシュールさと独特の緊張感を持っていて、読み手に期待を抱かせる。しかし、その後の展開は予想を超えるものではなく、爪と目という身体のパーツの接近を通して「わたし」と「あなた」の関係性の均衡の破綻に収束してしまう。全体的に完成度の高い文体と表現で、芥川賞をとったこと自体は驚かないが、なんかこうクライマックスに向けての盛り上がりの割に物足りなさを感じてしまった。ホラーっぽい怖さを全面に押し出した方が良かったのじゃないか、と思った。つまり、せっかく3歳の「わたし」の視点を得ているのに、その未成熟な人格ゆえに成り立つ不条理さと不気味さみたいなものとは遠い、繊細で多感なのになぜか行動に理性と必然性が感じられるところ(これは「わたし」の回想録という設定もあるのだろうが)が、ちょっともったいない気がするのだ。
そして、僕が女流作家を好まない理由である「出て来る男がみんなダメ」は、この小説でもご多分に漏れず。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2013年7月28日
- 読了日 : 2013年7月27日
- 本棚登録日 : 2013年7月26日
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