後の方にネタバレがあるので…
映画や本のプロモーション、最近酷いのをよく見かけませんか?一番バラしちゃいけないことを映画だったら予告編、本だったら帯でバラしちゃってたりします。この間、大きな本屋さんの平台に並んでいた本の帯なんか「仰天の叙述トリック」ってでかでかと書いてありました。叙述トリックの本の帯に「叙述トリック」って書いてあるのって…。昔だったら、図書館で借りた推理小説の扉に犯人の名前が書いてあった、なんて冗談がありましたけど、それどころではありません。出版社が自分でそれをやってるんですから…。いや、もしかして叙述トリックってばれていてもなお最後であっと言わせる仕掛けがあるのか、それとも「叙述トリック」と宣言をしていること自体が叙述トリックに含まれるのか…。
で、この本です。
宮部みゆきって、ミステリをたくさん書いている印象がありますが、でもその中で、トリックとか、犯人当てとかみたいな、もう少し狭義の、「本格推理小説」っぽいものは少な目かもしれません。このR.P.Gはその少な目の、貴重な「本格」です。
舞台は回想等を除けばほとんど取調室から動きません。そして、その物語のラストで、その舞台で行われていたこともまたR.P.Gだった―タイトルのR.P.Gがダブルミーニングだったことに気が付いて、読者はあっと言わされます。宮部みゆきってこういうトリックを書こうと思えばちゃんとかけるんだなあって思わされます。
なお、あとがきに、「地の文のなかに真実ではない記述がある」って書かれていて、ここで初めてこの作品が叙述トリックではないことに気が付きました。言われてみるまではあまり不自然だとか、ズルだとか思わなかった自分の騙されっぷりは結構壮絶です。
ところで、この本の出版は2001年。道具立てにインターネットだとか、ホームページだとか、掲示板だとか、チャットだとかがたくさん使われていて、現在からすると少し古くなっていますが、でも致命的な弱点にはなっていません。
むしろ、ネットの中でのR.P.Gに怒った犯人に対して、犯人が「自身の顔を見せず、声も聞かせず、ハンドルネームの陰に安全に身を隠して、その心の内を誰かに語る機会を得ていたら?怒りに暗く翳る瞳や、傷心に頑なにゆがんだ口元は隠したまま、ただ言葉でそれを誰かに伝え、ぶちまけることができていたら?ひょっとしたらそのネットの中の誰かは、血肉を具え行動力があるが故に、いたずらに犯人に引っ張られていった共犯者にはできなかった役割を、果たしてくれたかもしれない」なんて記述があります。ネットのトラブルを現実に持ち込まなくて済めばよかったのになー、って言ってるんです。ネット自体が安易に悪者にされがちななか、人情話が好きな宮部みゆきだけど、ずいぶん早いうちからネットとの付き合い方がよくわかってたんだなぁと感心しました。
あと、あとがきに、北村薫の「詩歌の待ち伏せ」の話が出てきます。読んで感動した本について、別の本野の中で語られているのを見るのは楽しいものですね。
ところで、宮部みゆきの作品って、これに限らず、続編やシリーズものではないのに他の作品の登場人物が出てくる、ってことがよくあります。
この作品の、かなり主要な人物も「クロスファイア」「模倣犯」からの続投です。世界観の広がりや人物の厚みを増しているのかもしれませんが…とくに関係があるわけではない他の作品を読まずにこの作品を読むと、なんか微妙に消化不良な感じがします。
- 感想投稿日 : 2015年2月20日
- 読了日 : 2015年2月20日
- 本棚登録日 : 2001年8月28日
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