「女にとって優雅であることは立派に美の代用をなすものである。なぜなら男が憧れるのは裏長屋の美女よりも、それほど美しくなくても優雅な女のほうであるから」生まれ育ちの良い節子には姦通という不貞も異国の珍しい宝石のようなものでしかなかった。この背徳の恋、穢れた肉欲を三島は無垢なる聖女の魂で描ききった。十分に幻想的とさえ言える耽美的な小説だ。出会ってから別れるまでのありきたりな関係の変化と意識の移り変わりが節子の一人称で書かれるから、男の理屈ではなく三島の言う女の理屈、いや無垢な論理で語られていく。それをベースに、繰り返す堕胎と男の冷めた気持を感じながらの別れ、その後の未練という陳腐な不倫を無垢の魂で受け止めて美しきものに転換した三島の筆力に感服する
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- 感想投稿日 : 2020年12月2日
- 読了日 : 2022年9月4日
- 本棚登録日 : 2020年11月28日
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