「魔性の女」に美女はいない (小学館新書)

著者 :
  • 小学館 (2015年10月1日発売)
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感想 : 16
5

 声をあげて、手を叩きながら、足をバタバタさせながら、涙を流しながら、楽しんで読んだ一冊。特にP136は、「男」がどういう価値観で女性とヤッているかがよくわかる。【筆者の知人の男は、少年時代から憧れていた野球選手のお嬢さんと一度だけ寝たことがあるそうだが、「その野球選手に抱かれた気分になれた」とはしゃいでいた。】とかはそうで、やり捨て目的の男はグルーピーの女性と非常に価値観が近い。女性の場合は相手が有名人だったりということではなく自己評価の低さ(と思い込むことであることから逃れる。または自己評価の低さを外国のなんか性の思想みたいなのに入れ替える)から股を易々開くのだが、男性の場合はその女性の歴史や家や過去やコンプレックスをペニスで喰って自らの自慢話や友達への報告にするためにやり捨てするので、女性に対して話す褒め言葉や話題はすべてパターン通りであり、捨てなれている男性は同じ話を誰にどうしたかわからなくなるので聞き上手側にまわるが、それはさておき、そういった男性を見事にどんどん描写して出してくるので、本当に「最高!」と思いながら読み進めることができた。
 P154ページの「愛人としての人生」をずっと歩み続けていた女性が、とうとう本当に恋に落ちてしまい、若いその男に言い寄ったら「あの年にしては、きれいな人だなぁとは思うんですよ。顔だけ見ていたら可愛いな、一度くらいならベッドを共にしてもいいかな、みたいな気分になった。なんといっても、僕が目指している業界の重鎮に可愛がられている人だし、そんな人を味方に付けたら大きいじゃないですか。でもね、手を見たらそんな気持ちはなくなりました。だって、皺くちゃで筋張っていて、おばあちゃんの手みたいだったんです。それで一気に冷めました」と、男の人は答えたとか。
「その過酷な現実を見てしまったら、自分は青春も女ざかりもすべて川島に捧げて都合のいい愛人にされて、もう取り返しがつかない。今さら別の人と結婚もできない。そんな、もう一つの厳然たる現実まで見なきゃならなくなる」と岩井さんのコメントはばっさり。とにかくばっさり切るので、明確に次が見えるのだ。そこがいい。そのばっさりがフォローになっているのだ。岩井さんの、女性に対する優しさは素晴らしい。
 ちなみに、この若い男のコメントだが、もうこんなもん、「一度ならベッドを共にしたいかな」と言っているが、これは「その女性に魅力を感じて、愛したいから、一回だけやりたい」ではなく、「その大物の人間を出し抜いてセックスしてやったぜ、俺は大物に負けてないぜ」とか「大物が抱いている女を抱いているから、俺はすごいぜ、仲間にも話そう」とか「大物に抱かれた気分だ」という、そのためであって、男は愛していない人間に限り、その女性の体うんぬんはまったく関係ない、ただその女の体の「向こう側」にいるおっさんとか男とか人種や歴史や階級を抱いているのだ。ある意味同性愛とか疑似差別みたいな行為をしているものである。援助交際も、同じだ。女性は、おっさんが優しくしてくれて、いろいろ教えてくれていい経験とか勉強とかあったかもしれないが、おっさんの目的は女性の親父を出し抜くこと、親父に勝つこと、または娘との疑似近親相姦(自分が女性の父親と同化する)、同級生の若い男に勝ちたいまたは若い男と同化する=父親や同級生の男とおっさんはセックスしているのであって、まったく女子高生というのはただの道に落ちている10円玉みたいなものである。女子高生なんぞそこらへんに吐くほどいるのだから。そういう、男の、好きでもない女に対する心意気に対して、岩井さんは男性をまだ優し目に見ているのではないか。甘いと思う。
 それから、P176からの、とにかく白人の子を産みたい女たちの描写も素晴らしい。そして白人男とヨーロッパの小国で暮らす咲恵の生きる形も面白い。ページを繰る手がとまらない名著だと思ったし、めちゃくちゃいろいろ参考になった。星、5つです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2015年12月13日
読了日 : 2015年12月13日
本棚登録日 : 2015年12月13日

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