新装版レズビアン短編小説集 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社 (2015年6月10日発売)
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感想 : 14

レズビアンと冠しているが、この本の女性と女性との関係性は、同時代の男性作家が描く男性と男性の関係性と変わりなく見える、彼らも彼女らと同じように、ときには相手に心奪われたり、生涯にわたる絆を築いたりするのだから。それらはどちらも恋のようにも、恋ではないようにも見える。だから、レズビアンと呼ばれるのはむしろ、小説あるいは社会の中で許された関係性における男女の非対称性がそうさせている(いた)のだと思う。

印象的だったのはマンスフィールドの「至福」。

ぴょんぴょん飛び跳ねる未だ少女のようなバーサ30歳が、美しく物憂げな女性に恋をして成熟を知る(満開の梨の花)、成熟は彼女に夫への欲望をもたらし、夫への欲望はその夫が欲望を向ける先を指し示す。

ふたりの夫はともかく(夫たちのみが社会的な生物として描かれ、自由な魂を持たないように見える)、黒猫のエディも猿のフェイスも大層魅力的だ。

梨の木といえば、萩尾望都「訪問者」でオスカーが(二度と帰れない)家の前で咲く満開の梨の花を回想する情景が忘れられない、幸福とその喪失の象徴たる梨の木の美しさが重なることで私には一層印象深い一篇だった。

「庭の隅の塀ぎわには、背の高いほっそりとした梨の木があり、見事に満開の花を咲かせていた。その立ち姿は完璧で、あたかも翡翠色の空を航海しているさなかに凪にあったかのようだった。咲き遅れた蕾もなければ、早すぎて今はすでに萎れかけた花びらもひとつとしてないことが、こんなに遠く離れていてもバーサにはおのずと感じられた。(略)すると、完全に満開の花に覆われた素晴らしい梨の木が、自分の人生の象徴であるかのようにまぶたにあらためて浮かぶのだった。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Literature (en)
感想投稿日 : 2021年7月27日
読了日 : 2021年6月19日
本棚登録日 : 2021年5月31日

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