大学受験のための小説講義 (ちくま新書 371)

著者 :
  • 筑摩書房 (2002年10月1日発売)
3.70
  • (25)
  • (27)
  • (44)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 421
感想 : 24
4

 センター試験や国公立二次の小説問題を解きながら、大学受験としての小説の読み方と問題の解法を提示するもの。太宰治の『故郷』や堀辰雄『鼠』などセンター試験が4問、津村節子『麦藁帽子』(岡山大学)や三島由紀夫『白鳥』(大阪大学)、横光利一『夜の靴』(東北大学)など国公立二次が10問の計14の過去問を解くことが出来る。
 おれは高校のときセンターの国語が苦手で、評論以外はほんと出来なかった。古文・漢文は高3の半ばで古文単語や句形を徹底的に覚えたら何とかなったが、小説だけは点を落としてしまい、問題を解くのが嫌いではないが、苦手意識が結構あった。特に国語は1問の配点が大きいので、ほんと怖い科目だと思っていた。
 それでもこの本を読むと、ちょっとしたコツが掴めそうな感じがする。心情把握問題=情報処理、積極的な正解でもないが間違いでもないものが答え、といった「受験小説の法則」が紹介されていて、面白い。(面白いと思えるのはもう自分に受験生としてのプレッシャーがないからかもしれないが。)
 文学者である著者からの、この問題は暴力的だ、とかこの部分はこう読んで欲しいんだろうけどこうとも読める、というような見解がいっぱいあって、文学を読むという作業がいかに知的で洞察力を必要とするかが分かった。それだけでなく、おれにとっては何となく分かるような分からないような(=つまり分かっていない)部分を、答案として的確に表現できる能力、というのもすごいと思った。国語の先生はすごい。例えば広島大学の野上弥生子『茶料理』の問一「犯さぬ罪を惜しんだ」が「肉体関係を持たなかったことを悔やんでいる」なんて、言われてみて「そうそう、つまりそういうこと」と思うんだけど、答えは自力で答えは出せない。というのばっかりで、ほんと国語難しいと思った。
 最後に受験小説の読み方とは関係ないが、福島大学の吉村昭『ハタハタ』の解説が面白い。「組織は生き残ることが『善』であり、組織は自立した生き物であるから、組織の本質を変えることは誰にもできず、だから組織を嫌悪し始めたらそこから降りること、しか出来ることはない」という解説(pp.203-4)が、なんか今のおれとおれの働いている組織に照らして考えてしまった。さらにp205の「『貧しい』ことはただひたすら悲しいこと」というのも、やっぱり現実はそうなんだよな、お金がないのに幸せ、というのも、あんまりお金がなくなり過ぎるとそうは言ってられないよな、という感じで、納得した。
 他にも「小説と物語の違い」など、とても勉強になった。おれは少し洋書を読むけれど、完全に「物語」じゃないと英語では読めないなあと思う。だから英語で「小説」が読める人、という英文学をやる人もまたなかなかすごい人たちだなあとあらためて思った。(14/08/--)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2014年8月23日
読了日 : 2014年8月23日
本棚登録日 : 2014年8月23日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする