どれくらいの愛情 (文春文庫 し 48-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2009年8月4日発売)
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本棚登録 : 1623
感想 : 160
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-20年後の私へ-
この作品は白石先生らしい福岡を舞台に社会的に自立した離婚歴のある女性の物語。
40歳を目の前に迎えて、今後このまま独りで人生を送っていくのか、それともある種の妥協の言い訳を自分に言い聞かせながらでも伴侶を得て世間一般的に普通らしい人生を送るのか…そんな分岐点に立って、これまで気づいていなかった愛情に気づく…ほんと白石先生らしい展開の物語でした。100頁程の短い物語なのでそんな感動すると言うほどのものではありません。彼らしさを感じられる作品として受け止めれば良いかと思います。

-たとえ真実を知っても彼は-
これはとても面白かったです!
作家と編集者という戦争を共に戦うような仕事を越えた濃密な関係性を構築する二人と双方の妻…それぞれ夫婦としての評判は高く、一方は親子共に仲睦まじく幸せな家庭だった。作家が急逝して明るみに出た真実、ドラスティックにうねりを上げて崩壊する家族関係とどう向き合い、どう折り合いをつけるのか?そこが読み処でドキドキしながら読ませてもらった。結果、作家の残した言葉通りであったが、それまでのあらましと逡巡…結論までの持っていきかたに白石先生らしさを感じた。
-ダーウィンの法則-
白石先生による夫婦間におけるセックスレスに関する考察が非常に興味深くて、そこへ結婚という夫婦間に横たわる倫理や節操という束縛を絡めて、すでに冷えてしまっている妻や家族との生活を守る人生と結婚後に出会った人であっても息の合う人と一緒の人生と、本当に幸せなのはどちらなのか?
「運命のヒト」…白石一文先生が描く物語には常にそのテーマが潜んでいる。そんな運命のヒトと出逢ってしまった男女が見せる葛藤や苦悩のような感情を通して「今を生きている自分は」一体何をどう感じて生きているのか?諦観や妥協じゃなく自分の自然な欲求に正直に生きるって事がどれほど大事なことかを伝えていると感じます。僕が白石一文先生が好きな理由がそこだと思う。これはとても良い作品でした。
-どれくらいの愛情-
この作品では作者の言いたいことの全てを「先生」が担っていて、他者を愛するという行為、他者を思うという行為とはどういうものであるのか?…それを喝破していたように感じました。二人一緒になりたいだけなのに目の前に立ちはだかる障害の数々を乗り越えて「愛するということの意味」に辿り着く…白石先生の頭の中にうずまく想いを叩きつけたような言葉だった。とてもいい読後感です。あとがきも素晴らしかったです。この本は、おススメです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 男女関係
感想投稿日 : 2019年8月30日
読了日 : 2019年8月30日
本棚登録日 : 2019年8月30日

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