息吹

  • 早川書房 (2019年12月4日発売)
4.16
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本棚登録 : 2793
感想 : 195
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訳者にして「最近十年のSF短編集では、おそらく世界ナンバーワンだろう」と評された本作品ですが、ぼくの拙い読書遍歴でもそう思える内容でした。

テッド・チャンの小説の面白さは、つまるところヒューマンドラマにあると思います。
彼の小説ではSF的で魅力的なモチーフが出てきますが、けっしてそのモチーフだけの力押しで物語が進むことはありません。
そのモチーフに関わった人間が悩み、喜び、戸惑い、生きていく様が描かれます。様々なSF的状況で人間がどう考え、どう生きるのか、それらが素晴らしい構成力でモチーフと融合した形で読者に提示されます。

基本的にどの短編もおもしろいですが、ぼくが特に心に残ったものは「不安は自由のめまい」で、プリズムと呼ばれる並行宇宙に存在する自分と交信できる機械が実在している世界の話ですが、並行宇宙の実在がわかっていることで人間がどのように考え、どのように苦悩するかがありありと描かれており、最終的に主人公が至る結論と、それに伴う行動に感動しました。
「オムファロス」は訳者あとがきでも言及されていますが「地獄とは神の不在なり」と同じように神の実在が認知されている世界での話。ここでも、実在は認知されていても、その行動原理はわからない神に対して人間がどう苦悩するかが描かれております。この短編のSF的な世界設定が本当に好きで、途中途中に描かれる、その世界の成り立ちの証拠が登場するたびにわくわくしてしまいました。こういう、SF好きの心をくすぐる設定もとても上手いと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年12月31日
読了日 : 2019年12月29日
本棚登録日 : 2019年12月29日

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