老子 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社 (1997年4月10日発売)
3.84
  • (35)
  • (37)
  • (46)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 599
感想 : 30

”金谷治さん訳注の『老子』。“現代人と古典とを直結するよう配慮”された訳文が読みやすい。サブタイトルは「無知無欲のすすめ」。

ガツガツせず自然体をよしとする老子の言葉は耳になじむが、以下の2文の厳しさにはドキリとした。

 ★他人のことがよくわかるのは知恵のはたらきであるが、自分で自分のことがよくわかるのは、さらにすぐれた明智である。他人にうち勝つのは力があるからだが、自分で自分にうち勝つのは、ほんとうの強さである。(p.113)
 
 ★聖人に短所がないのは、かれがその短所を短所として自覚しているからで、だからこそ短所がないのだ。(p.215)


「権下」や「不争」など、相手に対するやわらかな姿勢も、実は、内なる厳しさや強さが表現されているのかもしれない。
読了後、本書に対して親しみを感じつつ、一方でそんなことを考えた。


<キーフレーズ>
 道、水、無知無欲、明智、無為自然、さかしらの、権下・不争の徳

<読書メモ>
・「道」はからっぽで何の役にもたたないようであるが、そのはたらきは無尽であって、そのからっぽが何かで満たされたりすることは決してない。満たされていると、それを使い果たせば終わりであって有限だが、からっぽであるからこそ、無限のはたらきが出てくるのだ。(p.25)

・「最高のまことの善とは、たとえば水のはたらきのようなものである。水は万物の生長をりっぱに助けて、しかも競い争うことがなく、多くの人がさげすむ低い場所にとどまっている。そこで、「道」のはたらきにも近いのだ。」
 #上善は水の若し、が登場。「水」のたとえが意味するものって、こういうことだったんだ。

・この「道」をわがものとして守っている人は、何ごとについてもいっぱいになるまで満ちることは望まない。そもそもいっぱいにまでなろうとはしないからこそ、だめになってもまた新たになることができるのだ。(p.56-57)
 #”いっぱいになりきると再生の活力が消える”→十分な満足を貪らない

・君主がこせつかずに悠然(ゆったり)として、ことばを慎んで口出しをしなければ、それで仕事の成果はあがり事業は完成して、しかも人民たちはだれもが「自分はひとりでにこうなった」というであろう。(p.65)
 #大上の政治。

★世俗の人びとはきらきらと輝いているが、わたしだけはひとりぼんやりと暗い。世俗の人びとは利口ではっきりしているが、わたしだけはひとりもやもやとしている。ゆらゆらとまるで海原のようにたゆたい、ひゅうひゅうとまるで止まない風のようにそよぐ。多くの人はだれもがそれぞれ何かの役にたつのに、私だけはひとり融通のきかない能なしだ。わたしだけはひとり、他人とは違っている。そして、母なる根本の「道」に養われることをたいせつにしているのだ。(p.74)
 #なんだかしみる…。

★他人のことがよくわかるのは知恵のはたらきであるが、自分で自分のことがよくわかるのは、さらにすぐれた明智である。他人にうち勝つのは力があるからだが、自分で自分にうち勝つのは、ほんとうの強さである。(p.113)
 #!!

・内なる「徳」を深く豊かにたくわえた人は、ちょうど赤ん坊のありさまにも似ている。赤ん坊には蜂やさそりや蝮(まむし)のたぐいもかみつかず、猛獣もつかみかからず、猛禽もうちかからない。骨格は弱く筋肉もやわらかいが、握りこぶしは固い。(p.171)
 #知を棄て欲を忘れて無心になる = 嬰児への復帰

★聖人はまた人と争うことがないから、だから世界じゅうにかれと争うことのできるものはだれもいないのだ。(p.203)
 #逆説的な強さ。権下・不争の徳。

★聖人に短所がないのは、かれがその短所を短所として自覚しているからで、だからこそ短所がないのだ。(p.215)
 #知りて知らずとするは…

・天の道?自然のはこびかた?は、すべてのものに利益を与えて害を加えることはない。聖人の道?やりかた?は、いろいろなことをするとしても、他人と争うことはない。(p.241)

・老荘の道家(どうか)のほうでは、そうしたあるべき人間の姿の追求よりは、あるがままの本来の自然な人間にたちかえることによって、世界の騒乱は静まり、人びとの安定した暮らしが復活すると考えた。(p.248:解説 より)

・それによって考えられる人物像は、ほぼ紀元前300年頃の隠君子、世俗の外にあって超然としながら、しかも世俗の混乱と特に民衆の苦しみを救いたいと念願する憂世の哲学者であった、ということである。その他のことは一切わからない。(p.263:解説 より)



<きっかけ>
 人間塾in東京 10月の課題図書。”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: -
感想投稿日 : 2019年8月15日
読了日 : 2013年10月20日
本棚登録日 : 2019年8月15日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする