ユダヤ人 (岩波新書)

  • 岩波書店 (1956年1月16日発売)
3.47
  • (12)
  • (16)
  • (43)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 340
感想 : 27
5

今も色褪せない差別論の古典。差別は加差別側が生み出す。加差別と被差別の双方の人間を精緻に描出している。最後の社会主義革命によるユダヤ人問題解決の十分性への言及が唐突で、実効性に疑問が残るがそれ以外はどのくだりも傾聴に値する。

・反ユダヤ主義者は恐怖にとらわれ、それもユダヤ人に対してではなく、自分自身に対して、自覚に対して、自分の自由に対して、自分の本能に対して、自分の責任に対して、変化に対して、社会に対して、世界に対して、恐怖を抱いているのである。しかもかれは殺すときには群衆に紛れて、集団的処刑に加わるに過ぎない。
・反ユダヤ主義者は、ユダヤ人がユダヤ人であることを非難するのだが、民主主義者はユダヤ人が、自分をユダヤ人と考えることを非難しがちなのである。
・ところが家庭では、ユダヤ人であることに誇りを持てと言われる。恥辱と苦悩と傲慢の間をさまよう他はない。
・ユダヤ人の野心が根本的に、安全性への欲求だからである。
・人種という観念そのものが、不平等の観念を含んでいる以上、その観念の機構の深い部分には、既に価値判断が含まれているのではあるまいか。
・ユダヤ人がなによりもその所有形態(金銭)を好むのは、それが普遍的だからである。
・形而上的不安が、今日、ユダヤ人や労働者には、許されていない贅沢品であると言いたい。世界における人間の位置とその運命について、反省しうるためには、自分の権利を確信し、世界に深く根を下ろしていなければならない。
・ユダヤ人の関心の普通の対象は、まだ、世界における人間の位置ではなく、社会における彼の位置なのである。
・ユダヤ人の性格が反ユダヤ主義を引き越しているのではなく、反対に反ユダヤ主義者がユダヤ人を作りあげたのだ。
・宣伝や教育や法的禁止によって、反ユダヤ主義者の自由に呼びかけるだけでは不充分であろう。他の人間同様、彼もまた状況の中における自由体なのであるから、完全に改革しなければならないのはその状況なのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本<人権・平和>
感想投稿日 : 2016年3月2日
読了日 : 2016年3月2日
本棚登録日 : 2016年3月2日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする