重力ピエロ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2006年6月28日発売)
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本棚登録 : 55425
感想 : 4257
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1.著者;伊坂氏は小説家。大学卒業後、システムエンジニアとして働きながら小説を書き、文学賞に応募。デビュー作「オーデュポンの祈り」で新潮ミステリー倶楽部賞受賞。その後、作家専業となる。「重力ピエロ」で世に認知され、「アヒルと鴨のコインロッカー」で吉川英治文学新人賞受賞。「ゴールデンスランバー」で山本周五郎賞受賞、「逆ソクラテス」で柴田錬三郎賞受賞。氏の著書は米・英・中国・韓国、等で翻訳刊行。
2.本書;兄弟と父母の4人家族には、過去に辛い出来事があった。弟(はる)は、亡き母がレイプされて出来た子という設定。過酷な境遇の中で、連続放火と火事を巡る事件が始まり犯人捜しする物語。家族4人の性格描写が見事で、味わい深く、ミステリーというよりも感動的な兄弟・家族愛に溢れた小説。本書は、大きな賞は取っていないが、直木賞・本屋大賞・・等の候補になりました。勲章なくとも読み応えある作品です。
3.個別感想(心に残った文章を3点に絞り込み、私の感想と共に記述);
(1)『父の病気とピカソ』より、「人生というのは川みたいなものだから、何をやっていようと流されていくんだ。・・安定とか不安定なんていうのは、大きな川の流れの中では些細な事なんだ」&『エンジン、円陣、猿人』より、「生きるって事はやっぱり、辛い事ばかりでさ、それでもその中でどうにか楽しみを見つけて乗り越えていくしかない」
●感想⇒人生の安定と不安定は、経済面と精神面があります。川の流れの中では些細な事と言っても、簡単に割り切れません。経済面は身の丈に見合った生活をするしかないでしょう。しかし、精神面はそうもいきません。人は、家庭・仕事・・等で言うに言われぬ悩みや辛さを経験します。重要なのは、対処法と思います。私の場合、次の二つで勇気付けられてきました。①師と仰ぐ作家の本を読む。②家族を思いやる看護師の話を思い出す。彼女は青森の中学を卒業し、都会に出て昼間に働きながら、高卒資格を取る為に、夜間高校で学びました。彼女だけがモンペ姿の通学です。ある時、男子生徒が「働いているのだから少しはオシャレしたら」とからかいました。彼女の返事は、「弟と妹を進学させる為に仕送りしているから無駄遣いしない」と。私はこの実話を聞いた途端、目頭が熱くなりました。世の中には、私よりもっと苦労している人がいると。辛い時でも、明日は来ます。そう考えて、前向きに熟慮し解決出来ると良いですね。信頼する人に相談すれば、答のヒントがあるかも。
(2)『エンジン、円陣、猿人』より、「人の一生は自転車レースと同じだと言い切る上司もいれば、人生をレストランでの食事に譬える同僚もいた。つまり、人生は必死にペダルを漕いで走る競争で、勝者と敗者が存在するのだという考え方と、フルコース料理のように楽しむもので、隣のテーブルの客と競う必要は何もないという構え方だ」
●感想⇒人生を“自転車レース”又は“フルコースの料理”のように過ごすかは、十人十色です。育ってきた環境や人生に対する考え方が違うからです。私は、ライフステージによって変えた方が良いと考えます。則ち、“人生の前半期は自転車レース、後半期はフルコース料理のように生きる”事が良いと。前半期は“世のため人のため”に貢献するのです。個々人が挑戦心を持って生きればこそ、活力ある社会になります。所で、勝者×敗者という言葉は好きではありません。本人も競争の結果、負けたとしても敗者と思わず、気持を切り替えて新たな挑戦をすれば良いのです。周りの人達も温かく見守る度量が欲しいですね。後半期は、やりたいことをやればよい。仕事、趣味、ボランティア・・選択肢は豊富です。但し、社会のお荷物にならないように「自分の事は自分でする」生き方が前提なので、健康に留意です。
(3)『銘柄』より、「人の外見は、ファッションの銘柄と同じだ・・ブランド品は高いけれど、その分品質は良い。その逆もある。とんでもない品物にブランド名をくっつけて、客を騙すこともできる。他人の外見も一緒でさ、人は目に見えるもので簡単に騙される。一番大事なものは目に見えない、という基本を忘れているんだ」
●感想⇒確かに、人は外見で騙され易いものです。ブランド品で着飾った人、高級車に乗って自慢する人、・・等、人の本質は分りません。ケースバイケースでしょう。例えば、一生を託す結婚相手には日頃の言動に注意です。二人でいる時と、家族に対する態度(家族に横柄・乱暴な言葉遣い)とが極端に違う人は如何なものでしょう。また、調子の良い事を言って、最後に金儲けの話をする人も要注意です。労せずに儲かる事は殆んどありません。何れにしろ、人間の本質を知ることは至難の業です。普段から人を見る眼を養う事が必要とは言うものの、“君子は危うきに近寄らず”が一番かも知れません。
4.まとめ;最初の数ページを読んで、私は驚きました。「母は、突然部屋に押し入ってきた男に襲われた。その時に妊娠したのが、春(語り手の弟)だ」の一行。産まれる子や家族の将来を考えた時に、残酷だが堕胎させるのが、一般的でしょう。それに反し、父親は、レイプ犯の子を宿した妻を励まし、出産させ我が子として大事に育てたのです。その後のストーリー展開はさぞかし、苦しみの連鎖に陥るのではと想像しました。意外にも、読後感はなんと兄弟愛・家族愛に溢れた小説との感です。父親の言葉「春は俺の子だよ。俺の次男で、お前の弟だ。俺たちは最強の家族だ」に救われます。前に、角田光代さんの「八日目の蝉」を読んだ時と同様の感動を貰いました。伊坂氏の本を読んだのは初めてですが、三島由紀夫や岡本太郎等の著名人の引用も効果的で、心に留まる作家の一人です。(以上)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年2月20日
読了日 : 2021年11月17日
本棚登録日 : 2021年11月17日

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コメント 7件

shukawabestさんのコメント
2022/02/20

shukawabestです。
「重力ピエロ」読み応えありそうですね。映画を見逃したままだったのですが、今度読んでみます。

「人生の前半戦、後半戦」
「お荷物にならないよう」
身の引き締まる言葉ですし、あまり深刻になりすぎないように過ごしてきた僕も、そろそろしっかりしなければ、と思いました。

読み終えたらまたコメントさせていただきます。お付き合いください。

それから、「論文の書き方」とても良かったです。ダイちゃんさんと知り合わなければ巡り会えない著書でした。

また、他の感想を書かれた作品も参考にさせていただきます。よろしくお願いします。

ダイちゃんさんのコメント
2022/02/20

shukawabestさん、今日は。コメントして頂き、大変身の引き締まる思いです。これからもよろしくお願いいたします。

moboyokohamaさんのコメント
2022/04/07

読後の記録と感想をこのような方法で書きのこしておけるってすごいですね。
すばらしい。
できれば真似をしてみたい。

moboyokohamaさんのコメント
2022/04/07

フォローさせてもらいました。

ダイちゃんさんのコメント
2022/04/07

moboyokohamaさん、今晩は。ダイと言います。いいね&コメントして頂き、ありがとうございました。お褒めの言葉を頂戴し、恐縮しています。長文なので、読んで頂けるだけでも嬉しいです。私もフォローさせて頂き、本を覗かせてもらいます。これからもよろしくお願いいたします。

shukawabestさんのコメント
2022/05/28

shukawabestです。
今、読み終えました。重かったですが、読むことができてよかったです。読むきっかけを与えていただき、ありがとうございます。

ダイちゃんさんのコメント
2022/05/28

shukawabestさん、今日は。いつも、『いいね』と『丁寧なコメント」を頂き、ありがとうございます。本書を読了されたのですね。レビューされたら、読ませてもらいます。よろしくお願いいたします。

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