八日目の蝉 (中公文庫 か 61-3)

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年1月22日発売)
3.87
  • (1858)
  • (3004)
  • (1885)
  • (349)
  • (73)
本棚登録 : 21603
感想 : 2379
4

1.著者;角田さんは、大学在学中にジュニア小説でデビュー。「お子様ランチ・ソース」で集英社のコバルト・ノベル大賞を受賞しました。その後、「対岸の彼女」で直木賞、「ロック母」で川端康成賞など、数々の文学賞を受賞。文学以外には、学生時代からボクシングを始め、音楽はサザンオールスターズのファンだそうです。
2.本書;(1)第1章は、主人公(希和子)が不倫(秋山)の子を懐妊。しかし、説得され、堕胎する。所が、相手の妻には子供ができ、希和子がその子を誘拐し、逃亡を続ける話。
(2)第2章は、誘拐した子(薫)も、不倫(岸田)の子を妊娠。自分で育てる決意をするという話。◆ちなみに、本書は「中央公論文芸賞」受賞作品です。
3.個別感想(気に留めた記述を3点に絞り込み、私の感想と共に記述);
(1)第1章より、「薫に何を与えてやることが出来るのか。私には何をしてやることも出来ない。私と一緒にいる限り、この子には父親も親類もいない」「戸籍も住民票もないあの子を、どうやって学校に入れてやるのか」
●感想⇒この誘拐は営利目的ではありません。だが、これは犯罪であり、許されざる行為です。所で、不倫相手の赤子を誘拐した理由は書かれていません。読者の受止めは、読者の生まれ育った環境や思い・拘り等により、様々でしょう。不倫相手への報復とか、馬鹿な女だと詰る人もいるかもしれません。
私は、希和子が堕胎した子の幻影を見て、償いの気持ちと同時に母性本能が芽生えたと思いたい。本書の所々にある母娘の交流を読むと、主人公が実娘と思えるほどの愛情を注ぐ場面に出くわし、不憫で切ない気持ちになります。
(2)第2章より、「子供ができたかも(薫)」「路地に立っていた暗そうな人、今付き合っている人、奥さんと子供がいるんだよ。・・・面倒な事からは逃げる人だから(岸田)」
●感想⇒薫は、岸田に子を身籠ったことを言わず、自分で生んで育てる決意をします。小説とはいえ、批判がよいのか、同情がよいのか、悩ましい問題です。究極的には、当事者同士の問題なのでしょう。
老婆心ながら、愛情だけで子育て出来ません。シングルマザーの子育ての厳しさは想像以上です。子供ができたら、どうすべきかを二人で十分に話合い、解決策を見出すのが、人間としての最低限の責務です。道徳心の無い似非愛で、周囲に不幸な人を決して作ってはいけないのです。
(3)第2章より、「なぜこんなに嘘ばかりつく男(秋山)を好きでいたんだろう。・・・取り合うような魅力のある人には思えないし、思いやりがあるようには思えない」
●感想⇒不倫は、人の道を外した罪深い行為です。男女双方に責任はあります。だが、子供ができて、女性に丸投げする男は最低です。世間では、だらしのない男に惚れた女性も悪いと言うかもしれません。
当事者と傍目の違いがあるかもしれませんが、私は男が見て見ぬ振りをして、逃出す態度を許せません。仮に相思相愛としても、女性を一時の欲望で食い物にする卑劣かつ卑怯な男に嫌悪感を感じます。そういう人間は、いずれ相応の報いを受けるでしょう。
4.まとめ;本書を読んで、考えさせられたのは、家族とは何かという事です。家族は、血のつながりが基本です。主人公が赤子を誘拐して育てたのは、自分に辛い過去(堕胎と子が産めない体)があるからだと思います。親子関係は、血のつながりだけでなく、日常生活の中での愛情の注ぎ方次第と思います。「生みの親より育ての親」は至言です。わが子への暴力や子育て放棄の新聞記事を目にする度に辟易します。
さて、本書のラストシーンである、フェリー乗り場での希和子と薫のすれ違いについて、著者は読者に何を語りたかったのか、その後の二人は幸せだったのか。私はハッピーライフを期待してやみません。
本書は、結末を知りたくて、先へ先へと読みたくなる小説です。角田さんの読者を感情移入させる力量に脱帽です。ただ、薫が希和子と類似した不倫と懐妊する設定はフィクションとは言え、やや違和感があります。不遇な子供ほど、人一倍に努力している現実を間々知っているからです。創作活動だからと割切れば、これも“是なり”という事なのでしょう。  ( 以 上 )

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月21日
読了日 : 2021年9月12日
本棚登録日 : 2021年9月12日

みんなの感想をみる

コメント 11件

shukawabestさんのコメント
2021/12/16

 shukawabestです。この度はフォローありがとうございます。今後もよろしくお願いします。

この作品は2回読み、映画も1回観ました。自身の感想はまだブクログには載せてませんが、次読んだとき、載せようと思います。

私自身は独身のしがないおっさんですが、全体のこの作品の感想は、ダイちゃんさんが書かれている「希和子が堕胎した子の幻影を見て、償いの気持ちと同時に母性本能が芽生えたと思いたい」私もそこに尽きます。

私にもほかのフォロワーさんが数人いて、彼らが感想を載せ、高評価をされている作品の私にとっての命中率が驚くほど高いです。だからその作品を図書館で借りまくっていて、自分自身が読みたい、過去読んで良かったと思う本と交互に読もうとしています。

遅読なので、ダイちゃんさんの本棚を後追いしていくのはかなり先になりそうですが、いずれ読んでいきますのでよろしくお願いします。

夜分、長々と失礼いたしました。

ダイちゃんさんのコメント
2021/12/17

shukawabestさん、初めまして。ダイです。コメントありがとうございました。この本は、ドラ小瓶さんに選んで頂き、読みました。大変良い本を紹介して貰いました。ブクログを始めて、皆さんの本棚を拝見し、読書の幅が拡がったと思います。今後も、shukawabestさんの本棚を覗かせて頂きます。どうぞよろしくお願い致します。

shukawabestさんのコメント
2021/12/17

ありがとうございます。よろしくお願いします。

ご隠居さんのコメント
2022/02/07

この作品はNHKのドラマと映画で観て、原作本も読もうと思いながら10数年が経過しています。昨年はロケ地である小豆島に行き、『八日目の蝉』を読まねばと思ったのですが、仕事として読まねばならない本に追われて先延ばしになっています。

このたび、ブクログさんからのメール配信でダイちゃんさんの"レビュー"に辿りついたのですが、『八日目の蝉』のレビューを読ませていただきました。今夏までに機会を設けて、原作を読むつもりです。

ダイちゃんさんのコメント
2022/02/07

ご隠居さん、今晩は。ダイと言います。コメント頂き、ありがとうございました。古典の造詣が深いですね。これからも、本棚を見せて頂き、参考にします。よろしくお願いします。

村上マシュマロさんのコメント
2022/05/25

こんばんは。初めまして村上マシュマロです。夜分に申し訳ありません。
ダイちゃんさん、今朝(R4.5.25)私の拙い感想にいいねをして頂き、ありがとうございました。

ダイちゃんさんの感想を拝読させて頂きました。著者、本書、感想、まとめととても丁寧に書かれていることに、正直に申し上げますとビックリするとともに勉強になりました。

私も実はこの書籍に手を伸ばしたことがありますが、やはり内容の重さや自分の読む速度の遅さにうんざりで書籍を手放してしまいました。

ダイちゃんさんの感想でとても共感させて頂いたフレーズがあります。それはまとめに書かれている『親子関係は、血のつながりだけでなく、日常生活の中での愛情の注ぎ方次第と思います』です。

取り留めもないコメントになりましたが、今後も時折ダイちゃんさんの本棚を拝見させて頂きます。改めて勉強になりました。

ありがとうございます。

私は本を読むのもとてもスローリーで感想も沢山書けませんが、私なりの感想スタイルを少しずつ構築出来たら良いと思いました。

初めてのコメントなのに長文になり、大変申し訳ありません。ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

ご隠居さんのコメント
2022/05/26

ダイちゃんさん、コメントを頂戴していることに気付かず返信が遅くなってごめんなさい。
「古典の造詣が深い」などということはなく、「下手の横好き」の域を出ないままに様々なジャンルをさまよい続け今に至っております。

10年以上にわたって更新をせずにさまよい続け漂い続けるうちに【ご隠居】する年齢になってしまい、文字を追いかけ&生活を続けるために半分生きつつ、残りは枯野を駆けめぐっております。

還暦を過ぎてからは、読むことに加えて、考えることや仲間と語り合うことに興味が広がり、新たなジャンルにもたどり着きまして、駆け巡るチカラを維持しながらフィールドを拡げています。

といった次第で、どこかの作品で再度めぐり逢えることを楽しみにしております。

ご隠居さんのコメント
2022/05/26

村上マシュマロさん
ブクログさんからのメール配信でダイちゃんさんの本棚と村上マシュマロさんの本棚を拝見しました。

近藤史恵さんの作品は『シェフは名探偵』を視てから興味があります。あと、文学作品以外にも気になる本を幾つか見つけました。

また、どこかの本棚で遭遇できましたら、よろしくお願いします。

ダイちゃんさんのコメント
2022/05/26

村上マシュマロさん、今日は。ダイです。コメントして頂き、ありがとうございました。非常にご丁寧かつ分かりやすい文章で、お誉めの言葉も頂戴し、恐縮しています。私事ですが、若い頃、経理部に異動して、簿記と会計学に悪戦苦闘しました。今、振り返ると、経理経験がその後のビジネスマン生活に大変役立ちました。私も、当時の上司に感謝しています。今後も、よろしくお願いいたします。

ダイちゃんさんのコメント
2022/05/26

ご隠居さん、返信コメントして頂き、ありがとうございました。私も、別の作品で、お会いすることを楽しみにしています。よろしくお願い致します。

村上マシュマロさんのコメント
2022/05/26

こんばんは、ダイちゃんさん。コメントの返信及びフォローをありがとうございます。今後とも宜しくお願い申し上げます。

ツイートする