空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (2008年1月10日発売)
3.84
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本棚登録 : 18490
感想 : 1682
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1.著者;奥田氏は小説家。文章を書くのが得意で、広告のプランニングやメディアの仕事を経験。新人賞をとって作家になる人が多い中で、氏は出版社への持込み、「ウランバーナの森」でデビュー。少年時代は、マンガを好んで読み、歴史本や太宰治・夏目漱石にも目を通しました。”小説は、人をどう楽しませるかが大切で、必要なのはサービス精神”が持論。「空中ブランコ」で直木賞、「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞・・など、多数受賞。映像化されたヒット作も多い。
2.本書;精神科医の伊良部(主人公)の元に来る、精神的な悩みを持つ患者に破天荒な診療を施し、悩みを解決していくという5つの短編。短編は、①空中ブランコ(患者;サーカス団員)、②ハリネズミ(患者;先端恐怖症のヤクザ)、③義父のヅラ(患者;伊良部の同期生)、④ホットコーナー(患者;プロ野球選手)、⑤女流作家(患者;女流作家)。5人の患者は、順調な人生を送っていたが、躓き始め、伊良部と出会う。そして、天真爛漫な伊良部の行動で患者が自分を取戻していく話。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『第1話;空中ブランコ』より、「(患者)子供の頃、転校に次ぐ転校の生活だった。新しい友達が出来ても、二カ月で否応なく別れが訪れた。悲しい想いをしたくないので、ある時からバリヤーを張るようになった。新しい付き合いを遠ざけるようになった。・・身内意識が強くなったぶん外に対しての警戒心が敏感になった。たぶん自分は、閉じているのだ。本当は人恋しいくせに、近づこうとしない。友達が増える事に慣れていないのだ」
●感想⇒私は、幼稚園に行かず、祖父母に我が儘に育てられ、小学校の集団生活に馴染めない少年でした。低学年の頃、自分から人に話かけられず、寂しい思いをしました。「人恋しいくせに近づこうとしない」という気持ちは痛いほど分かります。私が変われたのは恩師(女性)のお陰です。先生は、私の長所を見つけ、自信をつけてくれました。頃合いを見て、学級委員にさせられ、対人関係に対する免疫もつけてくれました。悩みは誰にもあります。悩みのある人は、一人で抱え込まないで、解決の糸口を導いてくれる人との出会いがあると良いですね。私は、先生に救われた恩を忘れず、人から相談された時には、本人の悩みをよく聞いてあげます。余計なアドバイスを避け傾聴に徹し、問われた事にだけ答える。本人の立場に配慮しつつ、「余分な事は言わない、押し付けない」がモットーです。私のやり方は生温いかもしれません。本書の精神科医のような真似はとても出来ません。
(2)『第3話;義父のヅラ』より、「(患者)おれは[息子には]雑草の様に逞しく育って欲しい。・・・俺、思うんだけどさあ。体裁を取り繕うって、人生を生きにくくしない?開けっ広げの人間の方が絶対に楽なんじゃない?・・例えばの話。子供の頃からかしこまってばかりいたら、羽目を外せない人間になっちゃうぞ」
●感想⇒「一に勉強二に勉強、三四がなくて五に勉強」という言葉を耳にすることがあります。親は、「我が子に学歴を付けて人並み以上になって欲しい」と願うもので、気持ちはよくわかります。自分を振返ると、塾はソロバン位でした。学校から帰ったら、皆で秘密基地に集合。昆虫採集や川での魚とり・・、自然の中で楽しい時間を過ごしたものです。私は、現在の学歴主義を否定する訳ではありません。子供達には、もう少しだけ自然と接したり、好きな本を読んだり、という自由な時間をあげたら良いのになあと思います。そして、自分なりの夢を描かせてあげたいと思うのです。私は変人なのも。
(3)『第5話;女流作家』より、「“(患者)負けそうになる事は、この先何度もあるだろう。でも、その都度色んな人やものから勇気を貰えばいい。みんな、そうやって、頑張っている”・・人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。その言葉を扱う仕事に就いた事を、自分は誇りに思う。神様に感謝しょう」
●感想⇒私は人に頼るのが好きでなく、自分の力を信じてきました。しかし、振返れば、独学でも希望大学に入れたのは、受験勉強のコツを教えてくれた、恩師のお陰です。先生は、「科目ごとに名著と言われている受験書を決めて、徹底的にマスターしなさい」と。この助言がなければ、失敗していたでしょう。その後の、会社生活でも、仕事に行き詰った時に、上司や先輩が救ってくれました。「人という字を見なさい、左に立っている人を右の人が支えるんだ」とも教えられました。相互扶助が大切ですね。また、書物からも多くの勇気(言葉)を貰いました。好きな本の文言です。「人間の生き方とは、あくまで一人一人が決めるのである。迷った時には、人生の先輩・先人に学ぶほかない」です。
4.まとめ;正直な所、奇想天外な精神科医の話には少しついていけません。そんな医師がいる訳ないと。しかし、こうしたストーリーを組立てる、奥田さんはどんな頭脳の持ち主か、興味があります。出版社への持込み、なんかすごいですね。氏は、「説明的な小説、説教している小説、自分の事を書いている小説が嫌い」と言います。奥田さんは、計り知れない魅力ある人ですね。(以上)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月22日
読了日 : 2022年3月9日
本棚登録日 : 2022年3月9日

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コメント 4件

村上マシュマロさんのコメント
2022/09/04

こんばんは、ダイちゃんさん。
村上マシュマロです。

感想を何度も拝読させて頂きました。2点程、コメントさせて頂きます。

まず1点目は、ダイちゃんさんの感想の中に『余計なアドバイスを避け傾聴に徹し問われた事にだけ答える。本人の立場に配慮しつつ、「余分な事は言わない、押し付けない」がモットーです』とあります。私は相手の話しは傾聴出来る傾向ですが、余計なアドバイスは沢山している事に改めて反省しました。また「沈黙」のコメントに傾聴について書かせて頂きましたが、この感想を拝読して恐縮致しました。ダイちゃんさんのおかれている環境、立場等を知らずに申し訳ありませんでした。

2点目は作品中の女流作家より、「人間の宝は言葉だ。」のフレーズが印象的です。私は、私に関わって頂いた多くの方々のお言葉や書物等に沢山救われたりして、今の自分が成り立っています。ダイちゃんさんの感想もその一つとなりつつあります。感謝の気持ちを忘れない様にしたいと思います。

ダイちゃんさん、ありがとうございます。

コメントが私事の感想になってしまい申し訳ありません。

ダイちゃんさんのコメント
2022/09/05

村上マシュマロさん、おはようございます。コメントして頂き、有難うございます。1点目です。「余分な事は言わない、押し付けない」について、若い頃は出来ませんでした。歳を取り、ある日そうする事が良いと考えて、実行しています。但し、持論を言うのは時と場合によっては必要かもしれませんね。「押し付け」は良くないと思いますけど。2点目です。「感謝の気持ち」は大切ですね。最後です。「申し訳ありません」は、必要ありませんよ。人は、生まれも育ちも、千差万別です。多種多様な考え方があって当然です。色んな意見に自らを反省する事、しかりです。コメントは、大変励みになります。これからもよろしくお願いいたします。

村上マシュマロさんのコメント
2022/09/05

おはようございます。
ダイちゃんさん、コメントの返信をありがとうございます。私は、ダイちゃんさんの感想を拝読する事はとても勉強になります。こちらこそこれからもよろしくお願い致します。

ダイちゃんさんのコメント
2022/09/05

丁寧に返信して頂き、恐縮です。有難うございました。

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