シャドウ (創元推理文庫) (創元推理文庫 M み 5-1)

著者 :
  • 東京創元社 (2009年8月20日発売)
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本棚登録 : 8791
感想 : 804
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1.著者;道尾氏は、商社に勤務しつつ、小説を書き、「背の眼」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、小説家デビュー。その後商社を退職。専業作家になった。作家になる前には、太宰治・川端康成・横溝正史等の本を読んだそうです。「向日葵の咲かない夏」は、100万部を超えるベストセラーになり、「月と蟹」で直木賞受賞。賞金全額を東日本大震災の被災者に寄付。他にも、山本周五郎賞・大薮春彦賞などを受賞。音楽活動も行っており、『HYDE AND SECRET』でソニー・ミュージックエンタテインメントからデビュー。
2.本書;「第一章;五人~終章;三人」の五章構成。主な登場人物は七人(我茂家;夫妻(洋一郎・咲江)と息子(凰介[小学五年生男児])、水城家;夫妻(徹・恵)と娘(亜紀[凰介の同級生])、精神科医(田地)。筋書⇒「①水城恵が徹の勤務する精神科棟から飛び降り自殺 ②亜紀が交通事故で骨折 ③凰介が亜紀から恵の自殺経緯を聞く ④洋一郎が田地を精神科棟から突き落とし殺害」。詳細は本書参照。登場人物が、我茂家と水城家のシャドウ(闇・悩み)を切々と語る。物語が忙しく展開。読者は戸惑いながらも読み続ける。興味津々の小説で、ミステリ大賞を受賞。
3.私の個別感想(心に残った場面を3点に絞り込み、感想と共に記述);
(1)『第一章;五人』より、「(母子の会話)(凰介)人は死んだらどうなるの?(咲江)いなくなるのよ。(凰介)いなくなってどうなるの?(咲江)いなくなって、それだけなの。・・(凰介)さっきのあれは訊いてはいけない事だったのかもしれないと考えた。よくない質問だったのだろうと。・・三年た経ち、咲江はいなくなった(癌に侵され余命わずかだった)。
●感想⇒私はこの文章を読んでショックでした。母(咲江)の余命は知らなかったとは言え、子供ながらに耐えたと思います。その後、水島恵が建物の屋上から転落死。続いて、亜紀(恵の娘)が交通事故。凰介はまだ小学生なのに、相次ぐ悲劇をどう受け止めたのだろうか。本書のストーリーは別にして、凰介のような子供がいたら、何とか癒してあげたいと思います。しかし、私には術がありません。書物や人に聞いた知識だけでは解決の糸口さえ見いだせず、本人に寄り添えないと思います。同様の体験をした人のみが良き理解者なのかもしれません。
(2)『第二章;我茂洋一郎』より、「“(洋一郎)水城、例の乏精子症のせいなのか?あれのせいでお前は、亜紀ちゃんが自分の子供じゃないと考えるようになったのか?”、“(水城徹)・・恵は俺じゃない別の男に、身体を許したんだ。保険の仕事をしている時に、自分の体を武器に使ったに違いない。・・亜紀は、恵と保険の客との間に出来た子なんだ”」、「(亜紀)お母さんがわざわざ大学の研究棟(徹の職場)から飛び降りたのは、きっとお父さんへの仕返しの意味があったんだと思う」
●感想⇒夫婦は、仲睦まじいように見えても何かしら揉め事を持っているものです。負けるが勝ちと言います。大抵の事は、妻に勝たせれば良いのです。しかし、子供の問題はそうはいかないでしょう。水城は、冷静さを失っています。一方的な思い込みで、妻を疑うのは良くありません。それ以上に、子供が可哀そうです。水城のしなければならないのは、疑心暗鬼の心を捨てて、まず話し合う事でしょう。自分本位の考えでは解決策を見い出せません。話合いにより、互いを尊重する姿勢に勝るものはありません。
(3)『終章;三人』より、「洋一郎は、亜紀と凰介の会話から、恐ろしい事実を知る事となった。田地は、咲江だけでなく、亜紀までもあの忌まわしい欲望の犠牲にしていたのだ。・・凰介を殺人者にしてはならない。・・洋一郎は、凰介をその場から引き離し、田地の手に自分の拳を振り下ろしたのだ。田地は落下し、死亡した。・・洋一郎は二人に今夜の事は誰にも話してはいけないと告げた。誰に何を聞かれても、家にいたと答えるようにと、研究棟にいた事も、洋一郎に会った事も、絶対に喋ってはならないと」
●感想⇒田地は女性を欲望の餌食にした極悪人です。殺したいほど憎むのも当然でしょう。しかし、殺人の隠蔽はフィクションの世界の話です。現実社会での犯罪は法によって裁かれなければなりません 。事実に蓋をするのは、間違った対処です。隠蔽すれば、一生悩まされ続けるでしょう。“事実の前には謙虚”になる事です。事態が発覚した時の苦痛は計り知れません。事実を述べる勇気が将来に禍根を残さない方策だと思います。
4.まとめ;我茂親子と水城親子の六人は、それぞれの悩みを抱えています。物語が二転三転する中で、読者は推測と憶測を重ねるでしょう。最後に、田地が悪戯の犯人だとわかり、意外な結末と思う人もいるはずです。こうした事件の謎解きが妙味の1つかもしれません。また、本書はミステリーというだけでなく、親子愛・子供の心理・人に対する信頼と失望・・等を考えさせられる小説です。人間は誰しも何かしらのシャドウ(闇・悩み)を抱えているのかも知れません。万一、シャドウがあれば、良い解決の模索を願います。(以上)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月8日
読了日 : 2021年7月23日
本棚登録日 : 2021年7月23日

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コメント 2件

アールグレイさんのコメント
2021/09/24

初めまして♪
ゆうママと申します!
フォローを頂きありがとうございます。
――ダイちゃんと私の本棚では、少し路線が外れているように感じます。ですが、ダイちゃんには様々な分野にトライしては、と思うのです。多分目上の方に失礼かとは思いますが・・・・
私は、ミステリーと癒される本をひと息入れながら読みたいと思います。
フォローさせて頂きたいと思います。
よろしくお願いします。
読了→レビューUPしています。ダイちゃんのレビューもタイムラインで読みたいと思います!
( ^ _ - )=☆

ダイちゃんさんのコメント
2021/09/24

ゆうママさん、今日は。ダイちゃんと言います。フォローして頂き、有難うございます。愛犬が、今年 永眠しました。名前が “ダイ” で、享年14歳でした。その後に、ブクログを始めました。これからも、色々な本に出会いたいと思います。ゆうママさんの本棚も参考にさせて頂たいと思います。よろしくお願い致します。

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