コーヒーが冷めないうちに

著者 :
  • サンマーク出版 (2015年12月4日発売)
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感想 : 1384
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1.著者;川口氏は、劇団を主宰し、脚本家・演出家・小説家として活躍。舞台の「コーヒーが冷めないうちに」で杉並演劇祭大賞受賞。その後に小説として出版。本屋大賞にノミネートされ、映画にもなった。氏の趣味は、筋トレと旅行・温泉で、モットーは❝自分らしく生きる❞だそうです。
2.本書;幾つかのルールを守れば、過去に戻れるという喫茶店が舞台。家族・愛情・後悔をテーマにした4つの話。『第一話;恋人 第二話;夫婦 第三話;姉妹 第四話;親子』。読者の生立ちにもによるが、あの日あの場面に戻ってみたいという願望がある人には魅力的。文章が平易で読み易い。読者から❝何回も泣けた❞と評判になったベストセラー小説。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『第一話;恋人』より、『二美子は仕事一筋で生きてきた。・・「仕事が恋人」そう言って、何人もの男性の誘いを塵を払うがごとく断ってきた」「五郎(恋人)となら結婚してもいいと思うようになっていた」「五郎は(二美子よりも)アメリカ行きを選んだ」「(喫茶店で過去に戻った時の五郎の言葉)3年待ってほしい・・必ず帰ってくるから」
●感想⇒第一話は、結婚を考えていた彼氏と別れた女性の話。主人公の二美子はキャリアウーマン。彼から大事な話があると言われ、聞いてみると別れ話。本当は話したくないのに、渡米する彼を止めなかった事を後悔。喫茶店で過去に戻り、「3年待ってほしい・・必ず帰ってくるから」と言われる。結婚観について考えてみたい。一昔前は、家庭での役割分担、則ち❝亭主は外(仕事)で稼ぎ、女房は内(家)を守る❞と言われました。現代ではこの考えは化石でしょう。男性も女性も、それぞれの価値観に基いて自分の人生を決めるべきだと思います。その人生のワンステップに結婚があるのです。結婚は、家と家の問題もあります。二人で熟慮し、相手の価値観を尊重できる人を選びたいものです。そうは言っても、結婚は理屈で割り切れるものでは無いので、二人で決めるしかありません。結ばれて家族を持てば、悩ましい事もありますが、喜怒哀楽の日々を送るのもまた楽しいものです。物語の 二人はめでたく一緒になったのでしょうか。気になりますね。カップルに幸多かれと祈ります。
(2)『第二話;夫婦』より、「(房木;夫)アルツハイマーだと診断され、日々、記憶が消えていく恐怖と不安を抱えながら、それでも妻である高竹にはそれを気づかせず、一人で耐えていた夫」「お前(妻)は看護師だから、もう俺が色んな事を忘れていく病気だという事に気付いているかも知れない」「房木が高竹に望んだのは、妻であり続ける事だった。たとえ、記憶を失っても」
●感想⇒第二話は、記憶が消えていく男と看護師の話。房木はアルツハイマー症が進行し、妻の高竹を認識出来なくなる。発症前に書いた手紙で望んだは、「妻であり続けてほしい」という事だった。夫の気持ちを知った妻は・・・。五木寛之さんは書いています。「人間の傷を癒す言葉は二つある、❝励まし❞と❝慰め❞だ」と。妻は、きっと強く立ち上がる気力を得たでしょう。これを読むと、私は、母の事を想います。母は、認知症で要介護状態にあり、施設で面倒を見て貰っています。幼い頃、家族で出かけた旅行等を回顧すると、目頭が熱くなります。人は生まれた時から、色んな別れがあります。それは宿命です。感謝の気持ちを忘れずに生きたいものです。
(3)『第四話』より、「奥さんの心臓は、出産に耐えられないでしょう。・・奥さんが産む事を選択した場合、母子共に無事である可能性は極めて低いと考えられます」「今回、産む事を諦めたとしても、誰も責めはしない。それでも計は産もうとしている」(喫茶店で未来の我が子と会話)「私は生まれてきて、本当に良かった。私を生んでくれてありがと・・」「翌年の春、元気な元気な女の子がこの世に生を享けた」
●感想⇒第四話は、この喫茶店で働く妊婦の話。主人公の計は、堕胎すべきという周囲の意見もあるが自分の命を懸けて、産む決意をします。死を覚悟の出産には、人によって意見が分かれると思います。堕胎は、道徳的には許されるものでは無いのですが、私はごく普通の人間なので、産むべきではないと考えます。主な理由は、「①愛すべき妻が死んでします ②生まれた子供は母無しの片親生活 ③父親だけで子供を育てる大変さ ④・・・」。これは、生き方の問題なので、主人公が子を産むという選択は、彼女には正解なのでしょう。周囲のの意見に耳を傾けても、結論を出し難い悩ましい問題ですね。
4.まとめ;本の帯に読者の便りが数点載っています。ほとんどが❝泣けた❞というコメントです。私は泣けませんでした。戯曲が小説になったもので、どこにでもあるような話。物語の展開が一般的で他の文学作品に比べ、話の壺にやや精彩を欠いています。加えて、文章力が醸し出す雰囲気も味わえませんでした。但し、第二話と第四話は社会問題として考えさせられます。さて、「あなたには涙する事がないのか」と言われそうでですが、私も色んな悲しみを経験しました。とりわけ、会社の盟友の死には何度も涙しました。彼は、私と共にプロジェクトメンバーの一員でした。二人の子供(小学生)を残し、さぞかし無念だったと思います。今でもコスモスの咲く季節を迎えると、当時を思い出し、悲しみが込み上げます・・・。(以上)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月30日
読了日 : 2022年11月8日
本棚登録日 : 2022年11月8日

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コメント 3件

辛4さんのコメント
2023/08/08

ダイちゃんさん>
おはようございます。
そうです。同感でした。

> 物語の展開が一般的で他の文学作品に比べ、話の壺にやや精彩を欠いています。加えて、文章力が醸し出す雰囲気も味わえませんでした。

みなさんの評価が高くて、そのうえ映画にもなっているのに、私は全くダメ。泣けるどころか、最後まで読めず投げ出してしまいました。
わたしの観点がほかのひととちがうのだろうか。。。
ダイちゃんさんが一緒だったので嬉しくて。です。
ありがとうございます。

私はこういうゲームものがだめなのかもしれません。
同じルールに則ったお話であるツナグは大好きなのですけれど。

ダイちゃんさんのコメント
2023/08/08

辛4さん、おはようございます。ダイです。フォローして頂き、ありがとうございます。この小説に対する私の感想は、読者の皆さんに反し、辛口かなと思いました(実はこれでもややセーブしたつもりです)が、辛4さんのコメントを読ませて頂き、嬉しくなりました。これからもよろしくお願い致します。

辛4さんのコメント
2023/08/08

ダイちゃんさん
ありがとうございます。

> 実はこれでもややセーブしたつもりです
実は、ここまで私も一緒でした。
控え目に、できるだけポジティブになるように、と心がけていますが、なかなかね。

こちらこそどうぞよろしくお願いいたします~

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