石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門 (文春新書 991)

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  • 文藝春秋 (2014年9月19日発売)
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もっと早く本書を手にしておくべきだったと、読後後悔。
残念ながら本書執筆時点から10年が経過した現在では、色々と抜け落ちている部分があるが、エネルギー業界人の入門者は必読だろう。
特に、再エネや水素といった新領域に目が行きがちな今、これまでの世界成長を牽引してきた化石燃料とそのトレーディングを中心とした経済影響について、本書を通じて理解しておくことが肝要。

特に引っかかった箇所を抜粋しておく。

ポイントフォワードの思考

石油開発事業には「ポイントフォワード」と言う考え方がある。経済合理性にマッチした考え方である。これが、進行中のプロジェクトがなかなか中断されない理由の1つだ。
架空のケースで説明してみよう。
ある案件が、探鉱から開発に移行しようとしている。探鉱は成功し、相当量の埋蔵量が発見された。さて、今は回収率を最大にするため、最適の開発計画を策定し、産油国政府の許認可を得る段階だとしよう。すでに興行権取得及び探鉱作業等で50億円投資済みである。
だが、一方で、プロジェクトを推進している間に大きな情勢変化が生じていた。油価が値下りして、長期的に低迷しそうな上、地層構造が想像以上に複雑で、探鉱段階でも、予想以上の費用がかかってしまった。さらに、生産井の数を当初計画より大幅に増加しなければ、予定通りの生産ができないと判断される事態だ。
この案件に参画を決めたときの経済性評価では、探鉱が成功すれば100億円の総投資額に対し、300億円の利益が出ると見込んでいた。だが、すでに50億円費やし、さらに100億円の投資が必要な見込みだ。それでいて予想利益は300億円から120億円に下方修正せざるをえない。つまり、総投資額150億円に対し、期待収益が120億円に減少してしまったのだ。
さて、この時、この会社の経営陣はどのような判断をするだろうか?
プロジェクトフルサイクル(最初から最後まで)で見ると、150億円の投資に対して120億円の利益しか期待できない。このプロジェクトは30億円の損失をもたらす案件と言うことになる。これ以上の推進は無謀か?
だが、今プロジェクトを中断すると、これまでに費やした50億円が損として確定してしまう。さらに、中断の決定を当該産油国政府からすんなり承認してもらうのも困難だろう。地下に埋蔵量があるのは確実なのだから、交渉は難航するだろうし、もう二度とこの国での石油開発事業ができなくなるかもしれない。
発想を変えてみよう。
ポイントフォワード(過去の事は忘れて、これから起こることだけ)で考え、これまでの50億円の投資額(これをサンクコストと言う)を無視してみよう。すると、これから100億円の投資で120億円の利益が期待できる。20億円の黒字だ。当該産油国との好関係も維持できるし、さらにプロジェクトライフの後半には油価が上昇するかもしれない。今まで見つかっていなかった新しい埋蔵量が見つかるかもしれない。あるいはまた技術の進歩により生産コストを下げられるかもしれない。そういった可能性が残されている。今この段階でプロジェクトを放棄する事は、このようなアップサイド・ポテンシャル(良くなる可能性)を全て捨て去ることなのだ。
こうした事態になった場合、現実には、ポイントフォワードの発想で決断する。これが、ビジネス社会の現実である。
サンクコストを無視し、ポイントフォワードでプロジェクトの評価をする事は、石油開発では極めて普通の発送法なのである。したがって一度始めたプロジェクトは少々の情勢変化では方向転換することが少ないのだ。


シェルのシナリオ・プランニング

https://www.shell.com/energy-and-innovation/the-energy-future/scenarios/the-energy-transformation-scenarios.html

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感想投稿日 : 2023年2月18日
本棚登録日 : 2023年2月11日

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