数々の登山家を魅了してやまない世界最高峰のエベレストを舞台に、登山のプロフェッショナルでなくても多額の金さえ払えばエベレスト登頂をアシストする公募登山隊の実態を取材するために登山に同行した著者が目にしたのは12人もの死者を出し、エベレストの登山史史上で最悪とも言える悲劇であった。
著者のジョン・クラカワーは自らも登山を愛好するルポライターとして、公募登山隊の実態を把握すべく、一人のメンバーとしてエベレスト登頂に参加する。夢のエベレスト登頂を目指して集まった多国籍なメンバーや、同時期に登頂する他の公募隊たちとベースキャンプなどでジョン・クラカワーは親交を深めていく幸福なシーンが前半は続く。
彼らが悲劇に見舞われるのは後半、ベースキャンプを離れて山頂を目指す工程である。予期せぬ悪天候の中で一人、また一人と倒れていき、ジョン・クラカワーが参加した公募隊で生き残ったのは彼を含めて半分のメンバーのみ。空気の薄さ、マイナス数十度になる寒さと猛吹雪の中で人がどのように死んでいくのかが恐ろしいほどリアルに描かれていく。
そして結果的に下山できなかった半分のメンバーを残して生き残ったクラカワーらは残りのメンバーらを見捨ててしまった、という傷跡を一生背負うことになる。
極限状態の中で自らの生命を確保するためには、他者の生命を見過ごさざるを得ない。そうした倫理の極点に迫られたときに人は何を思うのかがここまで痛切に描かれたノンフィクションというのはないだろう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ノンフィクション
- 感想投稿日 : 2020年10月25日
- 読了日 : 2020年10月18日
- 本棚登録日 : 2020年10月15日
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