詩羽のいる街

著者 :
  • 角川グループパブリッシング (2008年9月25日発売)
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感想 : 140

詩羽(しいは)という名の不思議な女性が人々をつないで前を向かせ、
いつの間にか彼女の周りの社会を変えていく。      

詩羽は住む家もお金も持たない。
しかし、彼女に恩があると思う人たちから寝る場所や食べるものなど、
何もかもが提供される仕組みをつくる。
見ず知らずの人に手を差し伸べると必ず向けられる懐疑の目。
「どうして?」に対する彼女の答えはいつも同じだ。
「人に親切にするのが、あたしの仕事」彼女の親しい友人が言う。
「詩羽はね、触媒なの。彼女自身は変らないんだけど、
彼女がいることで周りの人が変わっていくの」
とはいえ、詩羽は相当な切れ者で、しっかり計算された親切と提案が、
次々とウィン・ウィンの仕組みを創り出していく。

「これは大人のファンタジー?」と思いながら読みすすめると、
詩羽の活動を通して、作者の社会に対する具体的な問題提起がされる。
例えば、フードロスを減らすために賞味期限の近い食材でエコ料理を提供する人々。
二酸化炭素排出削減のためにカープールを実行して
環境問題に一歩踏込もうとする人々。
ネットによる誹謗中傷をすることで快楽を得る人とそれに傷つく人々。
そして、老若男女を問わず孤独に苛まれて暮らす人々、等々。

非難することも罰することもせず、ただ親切にして前向きな提案をし続ける主人公。
「世の中、そんなに簡単じゃないよ」と思う一方で、
人が人を信じなくなったらおしまいだとも思う。
そして、実際に社会を良い方向に変えていくのは、
たしかに一人一人の優しい気持ちの連鎖にちがいない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年3月18日
読了日 : 2021年3月16日
本棚登録日 : 2021年3月18日

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