シルマリルの物語

  • 評論社 (2003年5月15日発売)
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本棚登録 : 608
感想 : 50
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SNSでトールキン専用アカウントを取った程度にはトールキニアンというか束人というかのはしくれだから、改めて感想を書くのは自分の一部を切り離して観察する作業のようでなんとも苦しい。それでいて何度目の再読か知れないのに毎回忘れているから情けない。

トールキンの文体はもともと引き締まって表現も簡潔なのだが、『シルマリルの物語』は神話伝説群だからさらに徹底的に切り詰められている。そこに神の言葉や契約や誓言の難しい言い回しが出て来るから決して読みやすいとは言えない。物語全体にも「遊び」のような部分は一切ない。一つの挿話に無数のモティーフが散りばめられているのにあまりに手短に語られるから、「もっとじっくり描写してくれたら…」とつい願ってしまう。そして読み手は一つ一つの断片から自らの手でイメージを紡ぐことになる。

創世神話から『指輪物語』の時代に至るまでがいくつかの章に分けて語られるが、中心は「クウェンタ・シルマリルリオン」。至福の国を離れ中つ国に移り住んだエルフのノルドール族の苦難の物語。ホビットという親しみやすい種族を中心に据えて書かれた『ホビットの冒険』『指輪物語』では仄めかされるに留まっていた、神話ならではの苛烈さ峻厳さがここで一気に噴出する。『ホビット』『指輪』の土壌がこのような荒々しくかつ奥深い世界であったことを知った時、二作で慣れ親しんだ中つ国は新たな色彩を持って眼前に開けていくだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: J・R・R・トールキン
感想投稿日 : 2015年1月28日
読了日 : -
本棚登録日 : 2015年1月27日

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