怒り(上)

著者 :
  • 中央公論新社 (2014年1月24日発売)
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感想 : 319
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市橋達也の事件をモデルとして、逃亡中の容疑者を追う警察、
そして容疑者かもしれない、背景がはっきりしない田代、直人、田中という
3人の男たち、彼らと知り合った周りの人たちの物語が
代わる代わる語られていく。

本作を元にした映画があり、
好きな役者さんばかり出ていると思って映画館へ見に行った。
旅先の映画館で見て、その夜はホテルに戻っても様々な感情が押し寄せて
眠ることができなかった。
良い映画だとは思うが辛くてもう一度見ようという気になれず
原作を読んでみようと思いながらも腰が重く
今回たまたま棚にあったのを見かけてようやく手にとった。

映画を見ているのでストーリーは知っているわけだが、
上巻を読んだ段階では、
もちろん省かれたエピソードや人物はいるものの
かなり忠実に作られていたと感じる。
物語全般に漂う気だるい空気、閉塞感が、肌にまとわりついてくるようだ。

タイトルについて
冒頭の犯人である山神が残した血文字の印象が強いが
筆者自身は山神の怒りというよりは、
三組の人々の怒りを描いていったものだという。
それを聞いて自分は腑に落ちるところがあった。
山神を追う刑事たちが、歌舞伎町に出入りしていた、と聞いて
女装して逃げているのではと発想するのがあまりに貧困で、
優馬の物語を読んでいるせいもあって辛く追い詰められた気持ちにもなった。
これも、突き詰めて表現するなら「怒り」なのだと思う。
刑事にというよりは、世間への。

映画であまりに酷いと感じた泉の一件、
辰哉の行動が原作の方が少しマシではあるものの
事前に聞いた「原作では泉ちゃんは無事」という話、
自分は読んでみてとてもそうは思えなかった。
これはもう、怒りを通り越して吐き気がする。あまりにも酷(むご)い。

物語が進む中に少しずつ不穏な空気が織り交ぜられており、
田代が愛子のことを大事に思っていそうなのに煮え切らないところや
優馬の友人たちの家に空き巣が入るところが
じわじわと気味が悪く、落ち着かない気持ちになりながら読んだ。
このざらつく描写は秀逸であると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年11月17日
読了日 : 2021年11月17日
本棚登録日 : 2021年11月2日

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