精神感応力(テレパス)を持つ者と普通の人々が共存する月開発記念市。
テレパス能力を持ち、生まれてすぐ親に捨てられ、施設では同じ境遇の子供たちからさえ毛嫌いされ、ひとりで生きてきた17歳の少女・ルシア。
「これまでなんにもいいことなかったわ」と嘯く少女の鬱屈した心は、初めての恋によって解放されようとしていた。しかしルシアが信じた年上の恋人は、能力者の精神感応細胞を奪って他人に成りすまし、警察から逃亡を続ける犯罪者・ブートタグだった。
彼の目的はルシアの精神感応細胞。毒を盛られたルシアはブートタグへの激しい憎悪を抱きながら死に、やがて彼女の憎悪の念が周囲の人々に陰惨な死をもたらし始める。
しかし逆にその憎悪によって救われた者もいる。無限心理警察刑事OZ。強力なテレパスであるがゆえに孤独であった彼は、少女の魂を救うために月へと向かう――。
死してなお尽きない無限の愛があるように、尽きない憎悪もまた存在するとしたら。
読んでいる間、フィリップ・K・ディックの『流れよわが涙、と警官は言った』の作中の台詞が思い出されて仕方なかった。
「ほんとうに愛してくれていて、助けてくれる人には会えないものよ。知らない他人とばかり関わりあいになるのよね」
ルシアとOZの出会いは遅すぎたように見える。しかし死んでから出会っても、お互いを救い、救われる関係が、何より読む者の心をすくう。
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―神林長平
- 感想投稿日 : 2014年3月23日
- 本棚登録日 : 2014年3月23日
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