レイヤー化する世界 テクノロジーとの共犯関係が始まる (NHK出版新書)

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  • NHK出版 (2013年6月5日発売)
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歴史の外観、特にそれぞれの時代における国(というか帝国というか地域というか)の在り方が非常に分かりやすく書かれている。緩やかな境界しか持たない帝国の時代、国を単位として分割された国民国家体制の時代、そしてこれからは、限界に達した国民国家体制、すなわち"ウチ"と"ソト"が明確に区別される世界観から、一つの〈場〉を世界全体が共有する形へ移行していく、という未来予想図。なるほど、国民単位で何かに(例えば映画やアイドルに)熱中する時代は終わり、その代わりに大きな平べったい〈場〉においてそれぞれがそれぞれに好きなものを作り、またそれを手に入れるという時代、こういう捉え方はありそうでなかった気がする。それに、今起こっている現実にも当てはまる。
ただこういう時代にありながら、なんとなく国粋主義的な傾向が強まっているという現実はなかなか興味深い。新しい時代を迎えるのとは逆の方に「戻す」力が働いているということか(時代の転換期にはありそうな話だ)。
新しいレイヤー化の時代を生き抜くため、アメーバのようにくねくねと動きながら自分の居場所を見つけていくという新たなアイデンティティの模索方法が求められる。カチッと決まったアイデンティティを持たせてくれる今の時代と比べると、それは確かに自由がきいて、とりわけマイノリティには暮らしやすくなるのかもしれない。でも同時に、なかなかしんどそうな時代だな、とも思う。自由に自分の居場所を探せるということは、自立というか、自分の意思が当然求められるわけであって、なんとなく何かに追従しておきたい人には甚だ生きづらい時代ではあるだろう。そこには"思考"が求められるのだから。
いずれにせよ、本書の時代を俯瞰する視点は面白い。所詮一人の人間なんて狭い視点でしか時代を眺められないから、こういう俯瞰的に時代を眺められる本の存在は貴重だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2013年6月24日
読了日 : 2013年6月24日
本棚登録日 : 2013年6月18日

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