虚ろな十字架

著者 :
  • 光文社 (2014年5月23日発売)
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感想 : 755
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ミステリーの形を用いた哲学の書であった。
重くて、簡単には答えの出せない、永遠の問題。
東野圭吾さんは、随時こういった問いかけを掲げた作品を発表する。そのたびに、「自分ならどうするか」「私はどう考えるか」ということを考えさせられる。
「人を殺したら自分の命で償うものだ」という考え方にも共感する部分はあるのだが、この考えを敷衍していくと、誰も生きていけなくなってしまう。
「とりあえず刑務所に放り込めばそれでよし」とするのは違うと思うのだが、じゃあ、反省とか償いはどういう形をとればいいのか、に対する答えは浮かばない。
反省すればそれでいいのか、とも思うし、「償う」って具体的にはどういうことを指すのかもわからない。
「こっちの命が失われたのだからそっちの命も失え」という感情は、たぶん、公平さとかそういう感覚とつながっているんだろう。
「自分の子どもが殺されたら」という仮定は、とても冷静に考えられる問いではない。それでも、誰もが誰かの子どもである、という事実を思い浮かべると、追求の手が少し緩みそうになるのも事実だ。
人が作り出したシステムは、あちこちほころびだらけで、矛盾だらけである。その、ほころびや矛盾の中で、自分はどういう価値観を持って生きていくのか、ということを時々は自問したほうがいいと思った。
「愚かである」というのは、もっとも悲しい罪の一つだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新刊
感想投稿日 : 2014年5月25日
読了日 : 2014年5月25日
本棚登録日 : 2014年5月25日

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