「私」をつくる――近代小説の試み (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2015年11月21日発売)
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感想 : 19
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太宰治の私生活が荒んでいたことがやたら有名なことについて著者はこのように語る。
おそらくその際に(ブランド化の際に)重要なのは、これらが現実の作者とは別に、作品を創るために意図的に演じられ、創り出された「作者」像であった、という事実であろう。例えば第1章に述べたように、太宰治に関していえば、自殺未遂を繰り返し、薬物中毒に苦しみながらも自身の弱さから目をそむけず、既成のあらゆる権威に戦いを挑み続けた無頼派作家、というイメージは、実は小説を書くために、あるいは小説を受け取るために、作り手と受け手とがともに作り上げた伝承世界でもあったのだった。作者はこうしたシグナルを巧みに小説に埋め込むことによって「太宰神話」を発信し、それを背景に新たな作品を書き継いでいくことが可能になるわけである。p167
つまり我々は太宰の術中にはまっているのである。小説の描写から作家を想像し、それに太宰の姿を重ねる。その時太宰の「無頼派」というイメージが強調され、そのイメージが神話となる。この本を読んだ後にゲス極がMステで「ロマンスがありあまる」歌ってるのを見て「プロだな」と思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年1月18日
読了日 : 2016年1月18日
本棚登録日 : 2016年1月18日

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