昭和史の大家が書いた入念な調査に基づいたノンフィクションとのこと。そのため、史実をまとめた新書にしては人情物に傾斜し、歴史小説にしては表現が稚拙。あくまで事実を描いたノンフィクションだからだろう。
さて、そこで描かれたのは「正義とは何か」であると思う。陸軍強硬派は天皇制の精神の維持の観点から「天皇と国民の意志統一」を求め、降伏に反対した。一方、天皇など降伏派は天皇制の維持を確信した上で降伏した。前者からしてみれば、後者は天皇制の形骸化を指向するものであり、容認できるものでなかった。
戦前においては「天皇制の存続」は絶対的正義であり、それを今の時代の観点から糾弾することはできない。しかし、同じ正義を有しながら、前者と後者の採った決断は180度異なった。それは何故だろうか。前者は「天皇制の存続」をあまりに理想化しすぎた。そのことに自ら酔いしれ、多角的視野に欠けたことが原因であろう。そうなってしまったら最後、彼らは意見を異にする人を粛正し、別の角度から考えられなくなってしまった。
ここからわかるのは、「正義とはどうあるべきか」ということだ。正義とは各人がおのおの持つものである。その中で自らの正義を理想化し固執することは、暴走である。自分における絶対的正義は他人におけるそれではない。どんな崇高な理想も暴走すればそれは凶器である。だからこそ、相互承認の関係が必要なのだ。
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- 感想投稿日 : 2015年6月4日
- 読了日 : 2015年6月4日
- 本棚登録日 : 2015年6月4日
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