なぜ戦争はよくないか

  • 偕成社 (2008年11月1日発売)
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 二〇〇一年九月十一日。覚えているわね、あの信じられない同時多発テロのあった日のことを。あのとき、みんな何をしていたのかしら。確か、夜遅くのことだったと思うわ。
 確か、私は好きな人とワインを飲みながらテレビを見ていた。
家族で団欒していた人も人もいると思う。職場の仲間と電車の時間を気にしながら酔っぱらっていた人もいると思う。机に向かって勉強していた人も、夫婦喧嘩して茶碗を投げつけていた人もいたと思うし、子作りに専念していた人もいると思うわ。
 ある国ではちょうどお父さんがお昼の支度をしていたのかもしれないし、別な国のある村では学校帰りの子どもたちが道草を食っていたのかもしれないし、また別の国のちがった町では売れ残った品物をぶつぶつ言いながら片付けている商店主の憂鬱があったかもしれない。それでまた別の国の別の町では反応の悪い客に涙目になって歌っている歌手がいたのかもしれないし、その客の中には株で一儲けして有頂天になっているふざけたやつがいたのかもしれない。
 そんなこんなでいつもと同じように時間が過ぎていたはず。幸福な人も、不幸な人も、怒っている人も、泣いている人も、行き詰まっている人も、はしゃいでいる人も、みんなそれぞれの人生という時間を過ごしていたはず。
 そしてそのときニューヨークは新しい一日が始まろうとしていた。いつもと同じようにはじまり、いつもと同じように過ぎて、いつもと同じように終わっていく一日が始まろうとしていた。ところがぎっちょん、ニューヨークは大変な惨事に包まれてしまった。あのそれが新しい世紀の何かを予兆する一撃だったのかもしれない。わたしはそんな気がした。そしてその予感はあたった。
 それから何が起こったかって?そう、アメリカの報復よ。その報復の嵐はアフガニスタンの村々をおそった。いつもと同じように一日を始めようとしていた村人の上に、テレビなんか見たこともない子どもたちの上に、テロとはまったく縁のない女たちの上に、今日の安泰を祈ろうとしていた男たちの上に。爆弾が落ちてきた。銃弾がたたきこまれた。熱い炎がそそがれた。そして多くの村が焼かれ、いやとなるくらいの人が死んだ。
 戦争が始まったんだ。戦争はどんどん広がっていった。イラクという国がずたずたになり、たくさんの人が死んだ。
 『カラー・パープル』という小説でピューリッツァ賞を受けた作家アリス・ウォーカーはこの中で戦争の恐ろしさを知ってしまった。戦争はふつうに暮らしている人々を、ふつうに暮らしている生き物たちを、ふつうに流れていく時間をぜんぶ食べ尽くしていく。そのことを人は知らなさすぎる。知らないと戦争は私たちの上に突然降ってくる。あのアフガニスタンの子どもたちが予期しなかったように。
 戦争がgood ideaだと思う人がいたから、戦争は起きたのよ。Why war is never a good idea? アリス・ウォーカーは問いかける。そのわけを。答えはほらわかっているでしょう、あの後のふつうでなくなった村や町や国を。ふつうに暮らせなくなった村人や子どもたちや女たちや男たちを。ステファーノ・ヴィタールの説得力ある絵がアリスの文に力を与えている。読み返せば読み返すほど戦争がgood ideaではないことがわかってくる。ぜひ子どもたちに読ませてほしいし、それよりおとなが読むべきかもしれないわ。

☆☆☆☆
どの教室にも一冊は置きたいわね。えっ?予算がないって。そのくらい自分で買いなさいよ、それで戦争が少しは遠のくんだから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人権
感想投稿日 : 2010年4月5日
読了日 : 2010年4月5日
本棚登録日 : 2010年4月5日

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