寂しかった。
新しい生命がやってきたり、子供たちが笑ったり、大人たちがそれぞれに余暇を楽しんだり、その全てを家はただそこでじっと見守っている。
一つの家の中で過ぎていく家族の時間は、毎日同じようで同じでなくて、少しずつ変わっていく。
私の家族の時間を思い出して恋しくなった。
クリスマスの夜は必ず母の手料理と子供たちが作ったケーキでテーブルが彩られたこと。
家庭用ゲーム機のコントローラーを握りしめて夢中になったこと。
ピアノの音。弾く人によって不思議とその音色が違って聴こえること。
休みの日の朝に父の布団に潜り込んだこと。
風呂場に響く声と、かこんと音を立てる洗面器。
今はそれを自分の記憶として覚えているのか、誰かから聞いた話を記憶だと勘違いしているのかも分からない。
二度と戻ってこない、思い出の中にだけある過去。
人間みな生まれて死んでいく。それをまざまざと目の当たりにして、少し怖くなり同時に安心もした。
私はただ生きているにすぎない。どうしようが自分の勝手なのだ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2020年10月11日
- 読了日 : 2020年10月11日
- 本棚登録日 : 2020年10月11日
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