NHK短歌選者で、穏やかな中にも真摯にゲストの話を聞く姿にグッとくる。
あとがきに「自分が忘れたくないと思った何かを、見知らぬ誰かにも伝えたいという願いから」との思いがこもった歌集。どの歌も、生活のふとしたそこまで特別でない場面を切り取って説得力のある歌でじんわりと伝わる。
身近な音楽やショッピングモールの連作、ワクワクしてはしゃいだあとの我に返る切なさも残る。句読点、クエスチョンマーク、カタカナが多用されて独特の調べと語感、行間になっている。目で読むのと音読するとでは雰囲気が変わる気がする。
開くたびに気になる歌が違う。
春だから母が掃除機かける音聴きたくなって耳をすませる
え、七時なのにこんなに明るいの?うん、と七時が答えれば夏
ゴッホでもミレーでもない僕がいて蒔きたい種を探す夕暮れ
抜けるほど青い空って絶望と希望を足して2で割った色?
じいさんがゆっくり逃げるばあさんをゆっくりとゆっくりと追いかける
さかさまの洗面器からざぱーんと水。さようなら今日のできごと
踏んづけた蜂は生きてたあの夏のプールサイドのバケツのなかで
僕ひとり乗せた車で僕はいま僕の命を預かっている
ショッピング・カートにねむる子らのまなうらにバーコードの万華鏡
アンコール良かったね、ってひとしきりひたってもまだはしゃいでる耳
日めくりがぼそっと落ちて現れた画鋲の穴の闇が深いよ
僕を切り売りするような感覚で切り取る分割証明写真
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
短歌
- 感想投稿日 : 2023年10月20日
- 読了日 : 2023年10月20日
- 本棚登録日 : 2023年10月20日
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2023/10/21