下巻のハイライトは何と言っても帝銀事件。この辺りで松本さんの姿勢が腑に落ちる。客観的にデータを見れば、明らかに整合性を欠くにも関わらず、犯人があげられ片付けられてしまっている。こんなに盲目で良いのか。主権があると思っている我々が。
歴史とは、記録になって発表されたもの。記録にするというその事自体に忖度、保身、栄達、圧力など様々な要素が反映される。文化の寿命は50年。1つのできごとの全体像が、瞬時に共有できる期間は長くて30年くらいだろう。その当時に判断力を持って生きていた人にしか、時代の空気は分からない。表に出た情報のその裏にある動きを、後からではもはや感じ取れない。そのところを、松本さんは大局的な推理という手法で表してくれた。言わば言っちゃならんことを明るみに出してしまっており、半藤さんも書かれている通り、読んでいる途中でその覚悟に恐れ入った。帝銀事件の取材がそうさせたのだろうが、松本さんにしか出来ない偉業だと思う。
上巻で私が持った所感は最後にことごとく反駁されていて、己の浅はかさをただひたすらに恥じ入った。
冷戦は何処か対岸の火事の気がしていた。2大思想対立のなかの日本の立ち位置、役割、高度経済成長の理由。全然終わってなんかない。
祖母は勤めに出る時、身辺をめちゃめちゃ調べられたと言っていた。私はまだギリギリ、時代の残滓を直接知る人とコンタクトが取れるのだな。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ノンフィクション
- 感想投稿日 : 2024年4月10日
- 読了日 : 2024年2月3日
- 本棚登録日 : 2024年4月10日
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