夕 (百年文庫 81)

  • ポプラ社 (2015年1月2日発売)
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感想 : 7
3

「悲しき配分」
単身赴任の父親がいない間、子供たちと密接に生活をしてきた。
時には煩わしく思うことがあっても、父親が不在の分、母親が判断をしてしっかりと子どもを育てようという、背筋を伸ばした心意気が伝わってきた。
そして、それは自分の意のままに子供と関われる時間でもあった。
しかし、父親が帰ってきて、子供たちの関心がそちらに移行し、決定権も父親に比重がかかるようになると、まるで子供をとられてしまい、自分は蚊帳の外のような、寂しさに苦しむ。
その気持ちは、よくわかる気がする。
素直に話せればいいのに。
自分の小ささを隠さず、夫と子供たちに、寂しいといえればいいのに。
私だったら、泣いて言う。
なんか寂しい、なんだか取られてしまったような、独りになったような気がする、と。
そう言って、自分の気持ちを伝えて、多少気を使ってもらえばいいのに(笑)

「家の中」
自分の生活を大切に、自分と向き合いながら生きる筆者の静かでゆるぎない姿が魅力的だった。
しっかりと自分を持っている。
私はぶれぶれなので、羨ましく思う。
自分の人生の思い出がつまった家で、その人生と今の暮らしを愛することができるということは、幸せなことだ、と思う。

「入江のほとり」
生きるための具体的な能力も見いだせず、不確かな独学の英文の世界に閉じこもっている辰男の気持ちは、わかる気がする。
偏屈で強い自分の世界を持っている。
他者との関わりを望むのではなく、自分の満足を求めているのだ。
栄一によって、現実の自分の不甲斐なさを突き付けられ、失望し恥のようなものを感じる辰男が悲しかった。
気持ちはとてもよくわかる。
現実を生きていくのは、なかなかしんどくて辛いね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 9・文学
感想投稿日 : 2021年2月22日
読了日 : 2021年2月23日
本棚登録日 : 2021年2月22日

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